冷たい男 第5話 親友悪友(7)
時刻は、ハンターが少女に怒りのビンタを放たれた時まで遡る。
「連続失血事件?」
冷たい男は、眉根を顰める。
「せやせや」
真っ赤を通り越してどす黒く腫れ上がった頬をコンビニで買ってきたモナカアイスで冷やしながらハンターは、頷く。
冷たい男の手で冷やしてもらった方が良く冷えるのではと思われそうだが効果が出過ぎて凍りついてしまう。
怒り狂った少女は、コンビニの端っこで茶トラが宥めていた。こんな時は女同士の方が和むかと思ったが、猫に説得は難しいのかいつもはピンッと立っているカギ尻尾が弱々しく地面の埃を掃いていた。
「ここ最近な、街の繁華街で失血死寸前まで血が抜かれる事件が多発してんねん。それも決まって被害者は若い男で、しかも2人・・」
「男で・・・2人」
何となくハンターがこれから紡ぐ展開が読めてきた。
ハンターは、赤黒く腫れ上がった頬をにっと吊り上げる。
コンビニの端から茶トラの小さな悲鳴が聞こえる。
ちらりと見ると少女の怒りポイントか何かに触れてしまったのか、少女が茶トラの三角の耳をピンピンッと引っ張っていた。
「目撃者の話しによるとな、その男たちは発見された場所は違うねんけど、ファミレスやファストフードで一緒におるのが見られてんねん。しかも・・・」
ハンターは、頬を冷やしていたモナカアイスが溶け始めてるのに気づくと封を開けて一口食べる。
頬の内側が切れてるのか、痛みに顔を顰める。
「超絶美人な女子高生の双子と一緒やったらしい」
点と線が繋がる。
「ちなみにその女子高生どもの制服は毎回違うそうやけど超絶美人ってとこは一緒や」
冷たい男は、小さく息を吐く。
「つまりその女子高生2人を捕まえるのに協力しろってことか」
ハンターのサングラスの奥の目が鋭くなる。
それはまさに獲物を追う時に見せる犬種のようだ。
「ちなみに・・・人間じゃないんだろうな?」
「当たり前やん。人間やったら警察に任せるわ」
そう言って指で電話をかける真似をする。
表現が古いと思わず突っ込みたくなるが、冷たい男もそれ以上の表現が浮かばなかった。
「犯行の手口から言って恐らく蚊トンボやな」
「蚊トンボ?吸血鬼じゃなくって?」
失血と聞いて1番最初に思いついたのが吸血鬼だった。しかし、ハンターは、肩を竦めて両手を大袈裟に動かす。
「吸血鬼なんて高尚なバケモンがこんな汚い食い散らかし方せえへんわ。これはもっと下等ななり損ないの仕業や」
「なり損ない?」
冷たい男は、首を傾げる。
「簡単に言えばバケモンになれなかった奴らや。バケモンとのハーフやったり、先祖返りやったり、突然変異やったりと色々やけど純血やないから当然弱い」
冷たい男は、"なるほど"と腕を組む。
コンビニの端で茶トラが悶える鳴き声を上げる。
ちらりっと見ると少女が茶トラのお腹に顔を寄せてスリスリしていた。
「そんじゃオレは雪男のなり損ないってとこかな?」
そう言って冗談めかしに笑う。
しかし、ハンターの目は笑ってない。
「・・,お前はそんなチャチなもんちゃうわ」
冷たい男に聞き取れないくらいの声で呟く。
冷たい男は「えっ?」と聞き返すがハンターは、触れずに話しを続ける。
「まあ、それでもこの食べ汚さは異様やけどな。普通は失血死寸前まで飲んだりせえへんし、こんな頻繁なんて有り得へん。自分で始末してください言うてるようなもんや」
「・・・何かあるかもしれないってことか?」
「そうかもしれへんがオレには関係あらへん」
溶けかけてヒダヒダになったモナカアイスを口に突っ込み、咀嚼もせずに飲み込むとゆっくりと立ち上がる。
「オレは、オレの仕事をするだけや」
「狩人として・・・か?」
ハンターは、にっと笑う。
「そう。捕獲や」