物損事故と慰謝料の関係は
|物損事故
物損事故とは、人身の損傷つまり死傷者のいない車両の損傷や物の損傷だけの交通事故のこと。
相手方の車両のみならず、人家の塀や建物、看板、道路工作物、信号機など「物」が相手の場合にも物損事故となる。
|慰謝料とは
慰謝料とは、相手方の不法行為によって精神的苦痛を受けた場合に請求できる損害賠償金ということになる。
交通事故の場合の慰謝料とは、被害者が受けた肉体的・精神的苦痛に対する金銭的な補償ということになる。
一般的に交通事故の場合の慰謝料には、入通院慰謝料、後遺障害慰謝料、死亡慰謝料(近親者慰謝料)の3種類がある。
そして、その算定基準としては、大別して自賠責基準、保険会社基準、弁護士基準(裁判基準)の3つがある。
|民法上の不法行為責任
民法第709条では「不法行為による損害賠償」について、また第710条では「財産以外の損害の賠償」について、次のように規定されている。
法理上、不法行為の損害としては、「財産的損害」と「財産以外の損害、すなわち精神的損害」の2種類に分類されているのだ。
|物損事故と慰謝料
物損事故においては、損害が発生しても「財産的損害」であり、損害が賠償されることにより、原状回復されることから原則として慰謝料の対象とはならない。
前記で説明したように慰謝料は「精神的な苦痛(精神的損害)」に対する賠償あり、原則として財産的損害は慰謝料の対象にならない。
|例外的に物損事故で慰謝料の対象となった事例
ペットは法律上「物」という扱いになるのだが、交通事故で負傷した犬について高裁判決で慰謝料が認められた例がある。
◎ 名古屋高等裁判所 平成20年9月30日判決
この事案は、信号待ち中に被害者の運転する車がトラックに追突された。その際に、後部座席に乗せていたペットの「ラブラドールレトリバー」が、後脚麻痺や排尿障害の後遺症が残ったもの。運転者等に負傷のない物損交通事故であった。
この事案に対して、裁判所は、
を主な理由として挙げ、被害者夫婦に慰謝料合計40万円を認めた。
この事例のように事案の内容に照らして、交通事故によって財産権以外の権利・利益が侵害されている場合などに例外的に物損を理由とする慰謝料を請求できる可能性があるということができるようだ。
|物損事故の損害賠償
物損事故では、次のような損害の賠償を請求することができる。
◎ 車の修理費、買い替え費用
◎ 代車使用料
◎ 休車損害
◎ その他(レッカー代、事故車の保管料など)
など。
休車損害や代車使用料、迷惑料などをいわゆる「慰謝料」と誤認している人もいるようだが、慰謝料とは肉体的・精神的損害をいうのだ。
|事故車両を修理しない場合の車両損害を賠償請求
ついでに説明すると、
例えば交通事故で車両が損傷した場合で、仮に
・車両の修理をしない
・損傷が激しいので廃車にするが買い換えはしない
ような場合にも、加害者に対して、車両損害の賠償請求ができるのだ。
もちろん損害賠償額は事故車両の損害の査定額による。
車両損害額は、車両が物理的に修理不可能な場合には、事故当時の車両の時価額が車両損害額となる。
一方物理的に修理が可能な場合の車両損害額は、原則として、事故当時の車両の時価額と修理代金相当額のどちらか低い金額が車両損害額となるのだ。
そのことにより、時価額が修理代金相当額を下回る場合には、被害者は修理する際に自己負担が生じることになる。
そのため事故被害者の中には、修理をせずに修理代金相当額を受け取り、買替費用にあてる人もいる。
|おわりに
物損事故と慰謝料の関係について説明しましたが、物の損害という財産的損害が損害賠償によって原状回復されその目的は達するという考え方が基本なのです。
交通事故は加害者になっても、被害者になっても利益はないでしょうから、ルールを守り安全な運転に努めたいですね。
もちろん自動車保険にもしっかり加入して・・・。
参考資料:
・日弁連:青本「交通事故損害額算定基準」、赤本「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準」
・民法
・(一社)日本損害保険協会HP
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