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#長編小説
【連載小説】あの時、僕は二人になった[8/10](7130字/総約8万字)
(十五)
倫也は実音に詳細を話したが、一雄や勇雄、百川の人たちには何も話すことができなかった。ハタケガワに指図している男にどうやって出会ったのか、いつ出会ったのか、知っていたならなぜ早く言わなかったのか。今回は写真や動画がないから、あの男のことを説明できる材料がない。世界線を跳んだから、とは説明できるわけがない。唯一の手がかりは、今夜、廃校で破壊行為をするはずのハタケガワだけだ。ハタケガワを捕
【連載小説】あの時、僕は二人になった[5/10](8844字/総約8万字)
(九)
朱莉は実音とともに歩いて集会所に向かった。実音は足を引きずるようにしている。
「朱莉さん、ゆっくりでお願いします。」
昨日、頑張りすぎたのだろう。いつもと違う運動をすれば違う筋肉を使うから、筋肉痛になるのは当然だ。昨晩は疲労困憊で、実音は早々と寝てしまった。向こう見ずを絵に描いたような女子高生に付き合うのは骨が折れる。朱莉とは三歳しか違わないのに、高校生は高校生というだけでとても若い
【連載小説】あの時、僕は二人になった[4/10](7314字/総約8万字)
(七)
中之内家に着いたときには、倫也はダウン寸前だった。シャワーを浴びたらもう座っているのも辛く、ソファの上に倒れ込んんだ。ゆっくり横になって夕食まで昼寝をしたいと考えていた。
しかし、神輿の装飾品の素材を手に入れるために出かけることになった。装飾品の素材として手芸用品を使うというのが朱莉の案だ。それを売る店が飛高駅前にある。
「まあ神輿を飾るんだから、ちゃんと神具店も見に行かないとね。」
【連載小説】あの時、僕は二人になった[9/10](8527字/総約8万字)
(十七)
「なんでいちばんいい時に跳ぶんだよ!」
倫也は地団駄を踏んだ。百川神社の祭りの最中、それも実音と二人で祭りを思い切り満喫していたところだった。すでに夕方近くであったので、今日はもう跳ばないだろうと安心もしていた。
最低なタイミングでトモナリの世界線に跳んできたことで、倫也の頭の中は憤懣やるかたない思いで埋め尽くされてしまった。トモナリの病室に入って毎度おなじみの挨拶をすることも面倒
【連載小説】あの時、僕は二人になった[10/10](8789字/総約8万字)
(十九)
祭りの翌日、朱莉は百川でもう少しやることがあるということで、倫也と実音は二人で名古屋に戻ることになった。
名古屋駅から栄に出て、そこから私鉄に乗り換える。実音の家の最寄り駅は、倫也の家の最寄り駅より一つ手前になる。家まで送っていくと倫也は提案したが、まだ明るいから大丈夫と実音は言う。そんなんじゃないんだけどな、少しでも長く一緒にいたいのに……と倫也は内心不満に思った。
その日の夜
【連載小説】あの時、僕は二人になった[2/10](8937字/総約8万字)
(三)
仕事を終えて、宗隆は中之内一雄の家に向かった。
「一雄さん、いる?」
宗隆が玄関から声をかけると、一雄の妻、寿々子が顔を出し、
「あら、いらっしゃい。」
と居間に通してくれた。ソファには一雄が座っており、夕方のニュースを見ていた。
「宗隆くん、ご飯まだでしょ。用意するから食べてって。」
宗隆が遠慮するのも聞き入れず、寿々子は宗隆分の夕食も準備し始めた。隣の和室では、四人の若者が喧々
【連載小説】あの時、僕は二人になった[1/10](8349字/総字数約8万字)
(プロローグ)
一学期末試験が終わった日の午後のことだった。
試験がやっと終わって、僕はとても解放された気分だった。夏休みに向けて新しい靴が欲しくて、栄まででかけてきた。目指すは、アディクスかアシッダスだ。どちらも新しいクールなデザインのいいスニーカーが新発売されていた。でも、まだ家の近くのショップでは取り扱いがなかった。栄にある直営店には限定で入荷したという話を聞いたから、とりあえず実物