短篇ですが、すごく濃い「94627」
<SF(198歩目)>
「日本SFの臨界点 石黒達昌 冬至草/雪女」と同様に、SFの臨界点です。
94627
石黒 逹昌 (著)
ベネッセコーポレーション
「198歩目」は、石黒逹昌さんによる「異常論文」的な濃いSF作品。
3篇の短篇ですが、濃さは三冊分。
「ALICE」は「日本SFの臨界点 石黒達昌 冬至草/雪女 早川書房」で読んでいた。素晴らしい。
それで探して、この作品にたどり着いた。
「イスラム教の信者、ユダヤ教の信者、キリスト教徒など、神の終末の日とを信じ善を行う者は、その主のみもとに報酬がある。彼等には恐れも悲しみもない」
湾岸戦争当時のイラクにかかわる仮想の国「ノヒン」にかかわる物語。
私たちにとって、縁があまりない地域を中心にして、日本人のジョーイ(コードネーム)が宗教についての問題点を提起している。なんとなくクルド人自治区のような、しかし宗教上の設定を変えて。。。
「日本SFの臨界点 石黒達昌 冬至草/雪女」と同じく、このフィクションの世界に没頭できる。
まさに仮想論文の様に、精緻な文章でひっぱる。
なんとなく21世紀に入ってからのこの地域をテーマとする多くのSF作品の先駆けに感じた。
伊藤計劃さん、柴田勝家さん、円城塔さん、藤井大洋さんのいくつかの作品に影響を与えたような。
とても濃い。
「97627」
731部隊のような、地下鉄サリン事件当時のオウム真理教のような、驚異的な薬物にかかわるフィクション。
これも思わず没頭する濃さ。
「子供の記憶というのはもう既に大人の中では死にかかっている部分です。そこを蘇らすことは、現実に存在している部分を薄めることになります。子供の記憶は死から最も遠い場所にあります。それが死の恐怖の除去の意味です。そういうふうに上官から説明を受け、実際に使用していた私も同様の理解をしていました。」うん、とてつもなく怖いことがさらりと文中に差し込まれる。
今回も、短篇ながら驚異的な切り口で濃く、読後ノックアウトでした。
現在は、医師として活躍されているとのこと。
時間がとれる状況になったら、また文学の世界に戻ってもらいたい。
すごく待望しています。
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