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ロシアからのディストピア「宇宙飛行士オモン・ラー」

<SF(5歩目)>
ロシアからの「科学」と「ディストピア」たっぷりの作品で人間社会を考えてみる。

宇宙飛行士オモン・ラー
ヴィクトル・ペレーヴィン (著), 尾山 慎二 (翻訳)
群像社

「5歩目」はロシアから、それも1922年~1991年まで存在したソヴィエト連邦の宇宙開発にかかわる文学テイストの作品です。(この作品は、ロシア文学愛好家の中では「文学」として評価されています)

著者のヴィクトル・ペレーヴィンさんは、ロシア文学フェチの方にはメジャーです。モスクワで最も読まれている人気作家の一人です。日本では一般的には知られていない作家ですが、究極的に人間社会の問題点をあぶり出すことの名手です。

彼はとてもロシア的な作家です。私たちの文化でもある予定調和型ではなく、究極に研ぎ澄まされた尖がった作家です。尖がった才能が、尖がった宇宙開発という分野で描くものはグロテスクなまでの「究極」です。

<ロシア的な科学思考>
私たちは一般的に消費者型の考えに終始しがちです。
「スイッチを押すと光る」がアタリマエになっていて、この結果を「アタリマエ」として考える思考になりがちです。

しかし、『「スイッチを押す」(行動)→「光る」(結果)まで』には究極的に考えられた沢山の科学と技術が介在しています。この「過程」に徹底してこだわるのが、ロシア的な科学研究の世界です。

この研ぎ澄まされたこだわりに、「個人の命は安い」(悲しい・・・、あまりにロシア的・・・)が「変数(パラメータ)」として加わると、究極のグロテスクな社会が生まれます。

どこの組織でも「目標」は大切ですが、これが徹底的に独り歩きをすると「ヤバい」ことになる。その「ヤバさ」を常に考えさせてくれるのがロシアSFの醍醐味です。(日本には「共産主義」の組織は少ないが、「全体主義」の組織はかなり多い)

主人公のオモンは、日本的にはまさに「ダメな人でしょ・・・」となるのですが、このオモンに感情移入していくと「愛(love)」が不足したプロジェクトの究極の「ヤバさ」が理解できます。

究極のディストピア小説でもあり、人間賛歌でもある稀有な作品です。

特記事項として、ロシアが誇る英雄「ユーリー・ガガーリン」(※)にかかわる言及がありました。
(ロシアでは、現在ガガーリンさんはステレオタイプの「英雄」以外に、関心を持って議論される対象です)

ガガーリンさんも、主人公のオモンと同じ思考で究極に取り組まれた一人だと感じました。

ユーリー・ガガーリン
人類初の有人宇宙飛行をされた(27歳時)英雄。しかし、7年後に航空機事故で死亡。茲許、彼にかかわる多くの著作が出ています。ロシアからも、その他の国からも。

特におすすめは「ロシアの星 集英社」です。(フランスのジャーナリストの作品です)

あ~「愛(love)」が無いと大変だ~~(笑)

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