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【イベントレポート】ICTのための情報教育を越えて―Society 5.0 の担い手を育むデジタルシティズンシップ教育

5月28日(土)、株式会社サイバーフェリックスは、オンライン対談イベント「ICTのための情報教育を越えて―Society 5.0 の担い手を育むデジタルシティズンシップ教育」を開催した。
 
イベントは、第一部に平井聡一郎氏による講演「デジタル・シティゼンシップで支える学校DX」、第二部では同氏に加え、立教小学校メディアセンター長の石井輝義氏、森村学園初等部ICT推進教諭の榎本昇氏による対談という二部構成で開催された。
 
登壇者は、全国の学校・自治体でICT活用推進を手がける平井氏、立教小学校で2017年から一貫してメディア教育を担当する石井氏、学校内外でプログラミング教育推進の実績を持つ榎本氏とこの分野に精通したゲストが揃っていた。立教小学校と森村学園初等部は、EdTech導入補助金2021によるDQ Worldの無償導入から2022年度の有償導入に至っている。

第一部:2022年は学校DXの年、とにかく使うからのアップデートを

平井聡一郎氏の講演では、「2022年は学校DXの年」、「古いルールをunlearnする」という2つのテーマが明確に分かりやすく伝えられた。

社会構造の変化にともない社会をよりよく生きるためのルールや必要なスキルが変わった今、今後も続くそうした変化に対応する力をもつ子どもを育てなければいけない。そのために教育の在り方を根本的に改革しようとしているのがGIGAスクール構想であるが、2022年は、「とにかく使うから選んで使う、効果的に使う」へのアップデートが必要だと平井氏はいう。

これまでICTを用いた授業にまず慣れる、従来の授業をベースにICTを取り入れるという先生を中心とした学習形態は大きく変わらなかった。しかし、2022年のGIGAスクール構想では、上述のような使い方のアップデートをすることで、学習者主体の学びへの転換が起き、授業者も学習者のサポートをメインとした在り方などの意識転換が起こる。

また、平井氏は授業以外のICT活用も学校DXのために重要だとし、以下のような興味深い事例が紹介された。印象的だったのは、右側の期末試験対策の例である。ある児童が、Quizletというアプリを使って期末試験で出題される単語帳作りにクラス全員が貢献できるようにし、また全員がたまった知識にアクセスできるようにしたということだが、協働的な学びの精神がよく体現された例ではないか。

左:生徒会メンバーの募集説明会の例 右:期末試験の対策の例

最後に、こうした学校での日常的なICTの活用に加え、今回のイベントの中心テーマであるデジタルシティズンシップ教育が必要なのはなぜか平井氏は説明を加えた。

高等学校ではすでに情報Iが必修となり、情報社会の仕組みや情報技術の科学的理解、そして情報社会における法などについても学習する。小中学校ではどうだろうか。

情報Iへの橋渡しをするためには、デジタル・シティズンシップ教育を情報モラル教育のさらに高次のレベルに位置づけて、小学校から学ぶ必要があるのだ、と平井氏はいう。

では、どのように実践するか。どう学校教育に落とし込むかを深掘りするのが今回のイベントのねらいである。

第二部:異なる課題、重なる目標、社会の変化に対応する教育とは

2001年からコンピュータ室を、2013年には一定学年での一人一台端末環境を導入していた立教小学校であるが、ICTの使い方については常に子どもたちとの格闘だった石井氏は振り返る。

次第に、子どもたちはフィルタリングをどうすりぬけるかだけを考え、教員はどうその穴を埋めていくかに専念してしまう状況から、制限ではなく自律的な判断による活用に転換する意識が高まった。

また、クリスチャン的理念に基づき、iPadの扱いを通じて学ぶ「モラル教育」「シティズンシップ教育」といったデジタルシティズンシップ教育に繋がる独自の教育を先駆けて実施してきたこともあり、DQ Worldの導入にいたった。

一方、森村学園初等部では、2017から Cellular 版 iPad や電子黒板などの導入を進めてきたそうだが、とにかく使ってみるから「どんな子どもを育てたいのか」に視座が変わる転換点があったと榎本氏はいう。これから必ず出てくるであろう社会のルールの変化に対応出来ない子どもをどう対応させていくか、という課題意識を持っていた時期に、同学園の中高等部からDQ Worldを紹介された。

対談をモデレートしていた平井氏は、「2校のそれぞれ異なる課題意識と教材導入までの経緯は興味深い」とコメントしていた。対談はその後、DQ Worldを用いたデジタルシティズンシップ教育の実践と効果についてへと移っていった。

実践において、森村学園初等部では、休校期間などを利用してDQ Worldの家庭での個別学習を進め、個別学習で児童が抱いた疑問や意識のズレを授業で取り上げたという。

児童が回答したアンケートを見ると、DQ Worldの学習スキルの1つであるデジタル市民のアイデンティティに関する設問で、「インターネット上の人格は現実世界のものと一致すべきか」の回答で「いいえ」が一定数いた。一件首をかしげたくなる回答だが、回答理由をみると、どれもありのままの自分を見せることで傷つきたくないという背景がみえてきた。自分の身を守る方法としての捉え方や心理的安全性が低い状況での回答である可能性など、対話のトピックとして適した一例である。

DQ Worldでの学習を一通り終えたら、下級生にICTの使い方を教えることができるバッジを授けられる仕組みも作ったそうで、児童は教材から自分で作ることでアウトプットの機会を得ていた。

一方、立教小学校では、授業の中で協同学習の手法であるジグソー法を用いてDQ Worldを扱った点でまた異なる事例の特色をもち興味深い。ジグソー法を用いたDQ Worldの展開については、別の授業レポート記事としてまとまっているので、ジグソー法によるDQ Worldの展開の指導案と記事から詳細が閲覧可能である。立教小学校でも、DQ Worldでの学習を終えた6年生が1年生に正しいiPadの使い方を教えるなど異学年交流の工夫がなされていた。

DQ Worldでの学習効果について実施したアンケートでは、学習後自分や周囲の変化についてスクリーンタイムに関する向上のコメントが一番多く上がったと榎本氏はいう。また、Google Classroomでのチャットの仕方などさりげない日常の場面場面で気遣いができる子どもが増えたと実感しているそうだ。学校でのその他の日常的な取り組みとの相関などの視点からこうしたアンケートを授業前後と学年末など定期的にとっていくことが大切ではないかと述べていた。

石井氏は、スクリーンタイムなどDQ Worldの言葉が子どもの口から自然と出るようになっているため、今後は学んだことをより日常的に意識して実践に紐づけることができるようになるといいと考えている。一方、デジタルシティズンシップは、非認知能力といえる側面があるため、長いスパンの中での変化を見極めていきたいという。

対談も終盤となり、今後の学習継続の課題と展望へと話題は移っていった。

石井氏は、情報教育の長年の実践の経験から「子どもにとってはデジタルと現実世界近いもの、大人みたいに切り離して考えていない。子どもから保護者に伝えていくことが大切。」と強調した。

また、ゾーンごとに培う資質と各教科や日常生活との結び付けを強化していきたい考えである。DQ Worldに取り組む前の学年から導入の授業をしていくという考えも、一貫した情報教育が設計されているからならではで興味深かった。

また、榎本氏は年間でプログラミングの授業を含めて20時間という限られた時間の中で、教員の負担を増やさずに学習を進めるために、児童が作った教材に目を通してチェックすることで子どもから学ぶ仕組みを作りたいという。

また、保護者にもデジタルの可能性をもっと評価してほしいという願いをこめ、放課後教室等の取り組みも始めていきたいそうだ。

これを受けて平井氏は、保護者と教員を巻き込んでこそデジタルシティズンシップはその教育的意義を発揮し、デジタルシティズンシップをきかっけとして学校DXが進むのではないか、と締めくくった。

最後に:すぐ教材に取り組める2つの方法のご紹介

サイバーフェリックスは、経済産業省が実施する学びと社会の連携促進事業(先端的教育用ソフトウェア導入実証事業)費補助金(以下、EdTech導入補助金)により、学校または自治体にEdTechツールを提供する公認事業者として、2020年、2021年に続き、3年連続で採択されました。これを受け、主に小学校高学年〜中学校児童のデジタルシティズンシップ育成に特化したデジタル教材DQ Worldおよび「DQスクールパッケージ」の無償実証導入校を募集いたします。


第8回目補助金交付申請期限:2022年6月24日 15:00
※9回目以降の日程は未定です。最新の交付申請期限については、EdTech導入補助金2022サイトにて随時ご確認ください。また、補助金が無くなり次第、交付申請の日程が終了となりますので、予めご了承ください。

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公認事業者採択プレスリリース

EdTech導入補助金2022での実証導入が出来ない場合でも、弊社が独自にご提供するDQ実証実験プログラム2022を利用することで、令和4年度中、DQ Worldを無料でお試し導入をして頂けます。その他、ご提供予定のサービスや参加の要件については、以下の記事をご覧ください。

詳細はこちらをご覧ください▼
DQ実証実験プログラム2022プレスリリース


■その他サービス
・ワークショップ(教育者向け、保護者向け、児童生徒向け)
詳細はこちらのサービスページをご覧ください。
・デジタルシティズンシップ診断テスト(無料・現時点で英語版のみのご提供)
デジタルシティズンシップ診断テストの受験はこちらの解説ページからご覧ください。


【株式会社サイバーフェリックスについて】
株式会社サイバーフェリックスは、国際シンクタンクDQ Instituteを戦略的パートナーとする、日本におけるDQ教育および研究のリーディングカンパニーです。デジタル社会がもたらした革新的で便利な生活の一方で、子どもたちは、ネットいじめ/テレビゲーム依存症/性的なコンテンツなど、様々な脅威にさらされています。弊社は子どもたちがこれらの脅威に適切に対処するための力を身につけることを、DQの普及を通じてサポートしています。
株式会社サイバーフェリックス Webサイト






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