魂魄をさらう(仮)

　夏になると昔よくヒトダマを採りに行った話しで盛り上がる。中学生になったかならないかの頃の話しで、近所のお寺にある墓場にヒトダマが出るというウワサが流れ、それなら皆んなで採りにいこうぜ。という事となり、夜中の0時に集合となった。
　俺はとりあえず親に早く寝る。と言って自分の部屋(弟も一緒に寝ていたが)へ行き、布団の中でしっかり11時まで待って、こっそりと外へ出た。
　お寺の向かいにある金久商店の前で集まったが、来たメンバーはパジャマ姿のやつが殆どで、自分だけちゃんと着替えていたのが少し恥ずかしくなった。来ていない奴が2人くらいいたが、0時を過ぎていたので置いていくことにし、出発となった。(来ていない奴にはあとでさんざん酷いことをしたような覚えがある。)

　墓場に着くと、にぎりこぶし大くらいのしろいのっぺりとしたヒトダマ(あれは実際のところ何なのかよくわからないのだが、ヒトダマと呼ばせて頂く。)が、ぬーと出てきており皆最初は驚いていたが、すぐに慣れてしまってタモで目一杯掬ってやった。
　それを虫かごやらびくなんかに詰め込んで「4匹獲った。」とか「俺は8匹獲った。」などと2時間くらいやっているうちに疲れてしまって、獲ったヒトダマを見せ合った。
　しばらく自分の獲ったヒトダマを眺めているうちにぼんやりと人の顔のように見えてきて、周りの奴らもこれはうちの死んだじいさんみたいだとか、こいつは去年死んだ乾物屋のばあさんの顔に見える。などと言い始め、かわいそうになってきたので残らず全部放してやった。
　それからは金久商店でジュースを買おうとしたが誰も小銭を持っていなかったとか親にどうやってばれずに家に帰るかという話になって、深夜の3時頃には解散となった。

　この話しは俺たちだけの秘密にして、その後も何回か続けていたが、ひとりヒトダマを採りに行ったのが親にばれてしまった奴がいて、学校でヒトダマを採りに行くのが全面禁止になってしまい全く残念な結果となってしまった。あれからあまりお寺の方には行かないが、今でも誰かがヒトダマ採りをしていると思いたい。

　子どもたちにこの話しをしても2人とも分かっているのかなんだか。というような顔をしておつまみの豆なんかを食べている。
「行ってみようか。」急に背中を押された気がした。

　深夜0時。眠そうな子どもたちを起こして実家を出発した。下の子どもを抱っこして上の子の手を引きながら真っ暗の中をゆっくりと歩きお寺までたどり着いた。
　墓場では昔見た光景と同じようにヒトダマが勝手気ままに空を漂っている。
　眠気の覚めた子どもたちに言われるままにタモを振り回し、7匹くらい採ったところで子どもたちた並んで座って3人でヒトダマを眺めていると、下の子が指をしゃぶりながら一言呟いた。

「おいしそう。」

　次の日の朝、妻に頼んで捕まえてきたヒトダマをからっと揚げてもらった。
　みんなで食べてみるがなんだか大きな高野豆腐みたいで、大きさのわりに食いでがない。
　それでもいつもあまりご飯を食べない下の子が、３つも4つも食べてしまったのには驚いた。

　横になってごろんと考えた。
「なんだか少し悪いことをしたかな。」

　休暇が終わってまた会社が始まった。けれどもあのヒトダマを食べたせいか、仕事中でもぼんやりとしてしまってこちらとあちら、娑婆と彼岸。冥朗銀河のことわりなんてことばかり考えるようになり、なかなか仕事が手につかないようになってしまった。
　　　　
　　　　　　　　　　　　　　　おわり