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書くたびに正気を失っていく~クリス・コルファー
前の記事では、『魔法ものがたり』が時事問題を扱った児童書であることをご紹介しました。
それは実際、どのように執筆されたのでしょうか。
▲ 日本語版上巻。下巻は、2022年春に発売予定。
小学校高学年以上。『ザ・ランド・オブ・ストーリーズ』を読んでいなくても大丈夫。
助けを求めて叫ぶように書く
人気俳優のクリス・コルファーさんがファンタジー小説を書くのですから、さぞ優雅に執筆されているのかと思いきや…
全くそうではなかったようです。
ー これで15冊目だなんて! 大変だったのでは? (現在は16冊を出版)
クリス:はい 、そうなんです。本を書くたびに、ちょっとずつ正気を失ってる気がしますね 。
(中略)
ー いつも執筆は、どのようになさっているんですか?パジャマにスリッパ姿で、バルコニーで書かれたりするのですか?それとも、お部屋で?
クリス:どのようにというより、助けを求めて叫んでる感じですね。 とても骨が折れるんです 。
まさに、お話ししたとおり、出版するたびに正気を失う感じなんですよ 。
でも、パジャマにスリッパです(笑)
(つづく)
「助けを求めて叫んでいる感じ」「出版するたびに正気を失う」…
かなりぎりぎりの精神状態で、キーボードと格闘されている姿が目に浮かびます。
ただし、パジャマにスリッパなんですね。
※画像はイメージです。
世の中への憤(いきどお)り
クリス:『魔法ものがたり』は、子どもが持つ魔法の目から見ても、僕が書いた中で最高の本だと思います 。
なぜなら、死ぬほどつらい思いをして書いたからです。
「迫害と偏見」というテーマについては お話したとおりですが 、僕は 怒っていました。世の中に憤(いきどお)っていたのです。
それを書かねば、と思うと、一旦パソコンから立ち去り、他のことで気を鎮(しず)めなければならないほどだったのです。
ー クリス・コルファー 2019.9.30 TV番組 NY LIVE より
https://youtu.be/0_fjlYXZ82M
『魔法ものがたり』は、子どもたちに「思いやり」を持たせるために、「迫害と偏見」がどういうものであるかを描く物語でした。
その「迫害と偏見」は、実際にクリスさんご自身に向けられてきたものであり、また、手紙をくれる子どもたちを現に苦しめているものでもあります。
それだけに、執筆されながら、様々な感情が沸き上がってきたに違いありません。
「迫害と偏見」を打ち砕く本
そして、命を削るようにして書き綴ったこの物語は、ご自身でも過去最高の作品になったとおっしゃっています。
クリス:正直言って、これは僕が今までに書いた中で一番良い本だと思います。というのも、これで、ほとんど死にかけましたから(笑)
この本はすべて、僕が体験したり失望させられたことのアレゴリー(たとえ)なんです。
(つづく)
(▼ ドラマ「glee」では、ゲイゆえに差別され、いじめられる役でした。そして、クリスさん自身も、それ以上と言ってよい過酷ないじめにあっていました。)
クリス:テーマは「迫害と偏見」で、この2つを打ち砕く内容を、子どもに理解できる言葉で書きました。
お読みになったら、その2つがいかに無益で、いかに有害であるかを実感され、強い怒りを覚えられることと思います。
未だに、こういうものにしがみつき、暴虐で偏見に満ちた人間であるがゆえに、何らかの受賞をしたり、ある種の信用を得ている人たちがいます。
このために怒りがこみ上げて、パソコンから離れて自分をなだめ、何か別のことをやらなければすまないということが、何度もあったのです。
ー クリス・コルファー 2019.9.30 TV番組 AMtoDM インタビューより
https://youtu.be/XVWYY53c7w4
このように、魂を打ち込むようにして生み出された『魔法ものがたり』ですが、その「献辞(けんじ)」には、これが誰に捧(ささ)げられた本であるかが記されています。
ちなみに、処女作『ザ・ランド・オブ・ストーリーズ・1 願いをかなえる呪文』は、おばあちゃんに捧げられていました。
▼ 次回は、この「献辞」のことを記事にしてみたいと思います。