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感情の陰陽

感情には陰陽のような性質があり、一方だけを切り取ることはできません。不幸や苦しみを感じる能力を抑え込んでしまうと、喜びや幸福感を味わう能力もまた制限されてしまいます。

たとえば、悲しみや苦しみを無理に否定しようとすると、心の奥に押し込められ、その結果として自分の感情全体が鈍くなります。悲しみに蓋をしてしまうと、その裏にある深い喜びの感覚も同時に感じにくくなるのです。

逆に、不幸や苦しみを受け入れ、その中で感じる感情にしっかり向き合うことで、人は「生きている実感」をより深く味わえるようになります。それが、幸福感や喜びにつながる土壌を育むのだと思います。

また、苦しい感情を受け入れることができる人は、他者の苦しみにも共感する力を持ちます。この共感が深まることで、人間関係や人生そのものがより豊かになります。そこには、人間の本質的な喜びである「つながり」や「愛」を感じるようになるのです。

「元気出して」「ポジティブに考えよう」と言いたくなる心理の背景には、相手の否定的な感情を目の当たりにすることで、自分自身の否定的な感情に触れたくないという無意識の動きが隠れていることが多いのです。

否定的な感情は私たちにとって不快で扱いにくいものであり、それを目にすると、自分の中にも同じ感情があることに気づかされます。この「気づかされる」という状況が、無意識のレベルでストレスや不安を引き起こします。その結果、相手の感情を「なんとか早く解消させたい」「自分も安心したい」という気持ちが先走り、励ましやポジティブなアドバイスという形で現れることがあるのです。

しかし、こうした言葉は、相手の感情を真正面から受け止めていないため、相手には「自分の感情が否定された」「無視された」という印象を与えることがあります。結果として、相手はますます孤独を感じたり、感情を表現することをためらうようになったりします。

「元気出して」や「ポジティブに考えよう」という言葉は、悪気があるわけではなく、むしろ善意から出ていることがほとんどです。しかし、善意だけでは相手の深い感情には届かないこともあります。それよりも、相手の感情を否定せず、「そのままでも大丈夫だよ」と伝える姿勢が、より深い癒しやつながりを生むのではないでしょうか。

多くの人生の課題や人間関係の問題に対する根本的な答えがここにあります。

他者に優しくする、他者の感情を受け入れる、他者を支える。これらはすべて素晴らしい行為ですが、それができるためには、自分自身にまず同じことをする力が必要です。自分の感情を無視したり、否定したりしていると、どれだけ意識しても、他者の感情を疎ましく思ってしまうからです。

たとえば、自分が悲しみを感じたとき、「こんなことを感じてはいけない」と否定してしまうと、その悲しみを持つ他者にも「それは大したことではない」と言いたくなるでしょう。逆に、自分の感情に寄り添い、「自分は今、悲しいんだ」とその感情を支える力を持てば、他者にも同じ優しさを向けることができます。

自分の感情を自分で受け入れられると、他者に対して過剰に依存することがなくなります。他者からの承認や助けを必要以上に求めることが減り、人間関係がより自由で対等なものになるでしょう。結果として、感情的な衝突が減り、対話や理解が深まるはずです。

自分自身が自分に寄り添えることで、孤独の苦しみが薄れます。孤独を感じるのは、「自分が自分に寄り添えていない」ときが多いからです。もし自分自身と良い関係を築ければ、外部の状況に左右されにくくなります。

自分の感情と向き合うためには、何を感じているのかを一つ一つ言葉にしてみるとよいでしょう。たとえば、「今、自分はイライラしている」と気づくだけでも、感情を抑圧せずに向き合うことができます。

「こんなことで悲しむ自分は弱い」「怒ってはいけない」という否定的な考えを手放し、ただその感情を認めることが大事です。

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