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帰りたくても帰れない『渋滞』

「俺のせいか渋滞!」
「あたしのせいでもないわよ。」

渋滞は人を苛立たせる。限られた束の間の時間を移動中の車内で笑って過ごすことは難しい。年末の帰省ラッシュにハマってしまった場合はなおさらだ。本作は、そんな日本の、しがない帰省ラッシュに捉われた家族の悲劇と感動のラストが描かれた、「渋滞ロードムービー」だ。監督は、黒土 三男、配給は、アルゴプロジェクト。ロードムービーといえば、謝肉祭が行われる聖地を目指して、長距離をバイクに跨り移動する、『イージーライダー』や、別れた妻子との再会を描いた、『パリ、テキサス』など、ゴールに向かって物語が、進められていくのだが、本作の目的地となる、藤林蔵(ふじりんぞう)の故郷、岡山県、真鍋島(まなべじま)には、なかなか辿り着かない。この映画『渋滞』が特質するべき点は、「渋滞そのもの」をテーマ描いていることだ。それは単に、日本の道路交通網に対する、問題を述べているだけではない。もっと根深い根幹の部分、日本社会に対してだ。劇中、林蔵はこんなことを言っている。「金持ち日本ってなんなんだ」本作が、公開されたのは1991年。まさにバブル期だ。働くだけ働き、裕福になっても、なかなか、田舎に帰る時間がない。ましてや、林蔵のような、島育ちの人間にとっては、帰省するのは一苦労だ。映画の冒頭、子供が寝静まった夜のリビングで、藤夫妻が、帰省費用の話をしている。交通費だけで、12〜13万。それに、島の人達に配るお土産代や、その他の費用を含めると、ボーナスの20万全て使い切ってしまう。それでも、最後に帰ったのが5年前のことで、父もボケてきてしまっているようなので、今年は会っておきたい。苦肉の策で、車を運転し帰ることを決断する。ところが、高速道路が渋滞し、宿が見つからず車中泊になる。養豚トラックと、正面衝突すれすれになって避けるも、30キロオーバーで、検問に引っかかっる。雪道にスリップし、ガス欠を起こして、最後は、息子が急病にかかる。これでもかというほどに、藤家に、苦難が待ち受けており、12月30日に家を出てから、到着したのは、休暇終了の前々日、1月2日。そして、感動の再会を果たしたかと思ったら、またすぐに船に乗り自宅へと戻る。これでは、何のために普段、一生懸命働いているのか、わからない。いつまで経っても辿り着かない、まるで、カフカの『城』のような話しだ。社会はいつでも不条理だ。帰りたくても帰れない。そんな地方出身者の心境が悶々と表現された作品だ。


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