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夕暮れ時にゆっくり読みたい物語たち

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2020年12月の記事一覧

レモンドロップ

すずりに垂らした透明の水に、砥石をすっと挿す。

静かに正座し、背筋を正し、砥石でゆっくりと円を描き始める。かすれ声のような研ぎ音は透明度高く。脳はやさしく撫で回されて、麻痺を起こしていく。
透明の水が黄土色に染まっていく。どろどろと滲みだすこの色は、まるで膿のよう。

腐敗したようなその色は、水の渦にゆるりと巻かれ排水口へと吸い込まれていく。肺の内側の膿が小さくなって、その分少しだけ息がつけるよ

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近くて遠い、あなたと私。【#クリスマス金曜トワイライト】

近くて遠い、あなたと私。【#クリスマス金曜トワイライト】

私があなたを意識し出して、もうすぐ2度目の冬がきます。叶わぬ恋、ということは分かっていました。想い人のいるあなたが私に振り向いてくれる可能性なんて、万に一つもありはしないという事も。

それでも。

私は賭けてみたかったのです。あなたが私に振り向いてくれる、その万に一つ。いえ、億に一つの可能性に。

◇・◇・◇・◇

あなたの想い人が、私たちの勤める会社のビル1階で働いているのは知っていました。「

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闇と闇のあいだで子どもたちは光を掴む

闇と闇のあいだで子どもたちは光を掴む

家出なんて、そんな子どもじみた言葉では表せない。あれは、おとなになってみて初めて分かった、逃避行だったんだね。そう、切ない気持ちを抱えた、初恋の君。

裸足で飛び出したマンションの廊下のタイルの冷たさを、ざらりとした砂を、今でも忘れられずに覚えている。泣きそうに冷たい、気持ちが悪い、それでいてなじみのある触感。けれど、その日はいつもと違った。

ガチャーン!
窓を割って、お母さんが泣き叫んでいる。

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【連作短歌】たぶんつばさが生えていました

【連作短歌】たぶんつばさが生えていました



昼休みカーテンゆれる君の背に たぶんつばさが生えていました

うまれつきいい奴みたいな顔をして渡す置き傘 恵みの雨の

少年は恋のルールをキスで知るアウトでいいよもう負けている

あなたの喉の骨をなぞってわたしたちが大人になってゆく夏

「愛 恋 違い」をGoogleに子どもらが問う夜のファミレス

さよならを失う冬にさよならと言えず重ねた手と手と口と

すきな人がよく眠れますようにと明日の未

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