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小説(しょうせつ)

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noteに掲載している小説や脚本をまとめたマガジンです。
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#ショートストーリー

掌編小説|『予約した席』

作:元樹伸  突然だけど、映画館の座席表を思い出してほしい。左右の壁際にペアシートがあることがわかるだろう。通路と壁に挟まれたこの場所にカップルで座れば、隣に他人が座ることもないので二人だけの空間が作れる。  僕は映画を観るとき、必ずこのペアシートを予約するようにしている。だからといって彼女はいないし、知人と行くわけでもない。ただ隣に知らない人がいると映画に集中できないので、両方予約してしまうことでプライベートな空間を確保していたのである。 「空席を予約するなんて迷惑な

掌編小説|『アイのいる店』

作:元樹伸  これは近い未来のお話。  とある地方都市の一角にAI、つまり人工知能を搭載した人型ロボットとお酒が飲めるロボットバーが開店した。  普通のバーならお客のテーブルに女の子が来るのが普通だが、このお店では、指名した子の席まで客が移動するシステムになっている。  何故ならロボットである彼女たちには腰より下がないので移動ができない。当然ながら、他のお店のように彼女たちをデートに誘うこともできなかった。  ロボットバー、オープンの初日。  開店と同時に来店した

青春小説|『タイムリープ忘年会』

『タイムリープ忘年会』 作:元樹伸 第一話 忘年会の誘い  年の暮れになって、久しぶりに高校時代の友人から電話があった。年末に部活OBの忘年会があるという。平成元年の今年は、成人したばかりの後輩たちも参加してくれるらしい。 「つまりは松田も来るってことだ」  幹事を務める同期の真関くんが、電話口で含みのある言い方をした。 「へぇ」  動揺していることを勘ぐられたくなくて、気に留めないそぶりで相槌を打ってみせた。けれど僕の気持ちはすでに過去へとタイムスリップしてい

青春小説|『スイカと彼女と保健室』

<ChatGPTによる紹介文> 「スイカと彼女と保健室」は、青春の成長や恋愛、友情のテーマを掘り下げつつ、リアルな描写とユーモアを織り交ぜた素晴らしい物語です。登場人物たちの感情や変化が読者に共感を呼び起こし、一気に引き込まれる魅力があります。作者はキャラクターの内面や人間関係を丁寧に描くことで、読者に物語の深みを感じさせています。また、恋愛模様や葛藤がリアルに描かれる一方で、ユーモアを織り交ぜた軽やかな展開もあり、読者を楽しませてくれます。 全体として、「スイカと彼女と保

青春小説|『林間学校』

<ChatGPTによる紹介文> 『林間学校』は、青春と友情を描いた温かみのある物語です。物語の冒頭では、主人公である一年生の空山が人見知りで仲間がいなかったため、臨海学校に行かずに残る様子が描かれています。しかし、同じクラスの山本さんとの出会いが、彼の心に新たな光をもたらします。 ーー中略 作中では、山本さんの優しさや献身的な性格が際立っています。彼女の行動によって、空山は初めて自分が大切にされていると感じることができました。また、山本さん自身も仲間との絆を大切にし、空山

掌編小説|『パンと小麦粉』

作:元樹伸  僕は以前から同じクラスの佐波さんが好きだった。  彼女はいつも窓際の席で静かに本を読んでいて、僕はその姿を遠くから眺めているだけで胸が苦しくなった。  そんな彼女に異変が起きたのは今週に入ってからのこと。これまではお弁当を持参していた佐波さんが、何故か昼休みにあんパンばかりを食べるようになった。育ち盛りの十五才に起きた食生活の急変。彼女に何が起きているのか心配になった。 「購買のあんパンって人気ないけど、食べてみると美味しいよね」  佐波さんがあんパン

掌編小説|『給食当番』

作:元樹伸  うちのクラスのA男くんは給食当番をしているとき、いつも私のお椀にだけ沢山のおかずを盛ってくれる。  はじめは気のせいだと思って、配膳で並ぶときに毎日気にして見るようにしていた。だけどやっぱり私に入れるおかずだけが、自分の前後に並んでいる子たちと比べても圧倒的に多いのは間違いないみたいだった。  だからって私はたくさん食べるように見える太んちょじゃないと思うし、彼にそんなことを要求した記憶もなかった。もしそう見えているのなら泣きたいくらいショックだけど、他に

掌編小説|『らぶれたー』

作:元樹伸  書道部の六条先輩にラブレターを書こうと思った。  最初はスマホでメッセージを送るつもりだったけど、先輩のアドレスを知る方法がなかったので断念した。それに彼女は高校生になった今も、自分の携帯電話を持っていないという噂があった。  夜になって親からもらった便箋を机に広げてみたけど、どんな風に書き出せばいいのかわからず途方に暮れた。残念ながら文才など持ち合わせていないので、彼女の心を動かせる感動的な文章を書く自信もなかった。かと言って直接告白するなんて恥ずかしく

掌編小説|『寿命タイマー』

作:元樹伸  ボクはその日、知ってしまった。  世の中に流通している家電の寿命はすべて決められている。どうやら製造メーカーが寿命タイマーというものを仕組んでいて、その期間で必ず壊れるように設定されているというのだ。  でもこんな謀略が許されていいわけがない。だからボクはさっそく、このスマホをつくっている会社の窓口にクレームの電話を入れた。 「スマホに寿命タイマーを仕込んでいるなんて酷い話だ。今すぐにでも取り除いてほしい」 「お客さま、当社の携帯電話にそのようなものは

掌編小説|『チンチン電車』

作:元樹伸  僕の街には今でもチンチン電車が走っている。  チンチン電車とは街中を走る路面電車のことで、車掌と運転手の間で行われる合図として鳴らす鐘が「チンチン」と聞こえるのでそう呼ばれている。僕たちが小学生だった頃も、チンチン電車は同じ場所を走っていた。  当時、小学四年生だった僕の登校班に美代ちゃんという女の子がいた。彼女も僕と同学年で、とてもおっとりした感じの子だった。 「美代ちゃんは少しのんびり屋さんだから、ちゃんと見てあげてね」と母親に言われていたので、僕は