掌編小説|『給食当番』
作:元樹伸
うちのクラスのA男くんは給食当番をしているとき、いつも私のお椀にだけ沢山のおかずを盛ってくれる。
はじめは気のせいだと思って、配膳で並ぶときに毎日気にして見るようにしていた。だけどやっぱり私に入れるおかずだけが、自分の前後に並んでいる子たちと比べても圧倒的に多いのは間違いないみたいだった。
だからって私はたくさん食べるように見える太んちょじゃないと思うし、彼にそんなことを要求した記憶もなかった。もしそう見えているのなら泣きたいくらいショックだけど、他に考えられる理由があるとすればひとつ。もしかしたらA男くんは私のことが好きなのかもしれなかった。
思えばB男くんが当番のときも同じようなことがあった気がする。だけど当時はあまり気にしていなかった。でも今回みたいに一度そんな風に考えてしまうと、私は夜も眠れないほどにA男くんのことが頭から離れなくなっていた。でも理由を聞くなんて恥ずかしくてできそうもないので、それからしばらくの間は悶々とした日々を過ごしていた。
ある日、私は思いきってクラスの男子にそのことを相談してみた。
「ずっと気になってるんだけどあなたはどう思う?」
「つまりはA男のことが好きなんだろ? だったら恥ずかしがってないで聞いちゃえばいいじゃん」
「でも自信がないよ」
「バカだな、こんなのは当たって砕けろじゃないか」
うちの学年で一番ませている彼が胸を張ってアドバイスしてくれたので、私は勇気を出して、A男くんに本当の気持ちを聞いてみることにした。
「ねぇずっと気になっていたんだけど。どうして給食のとき、私のお椀にだけおかずをたくさん盛ってくれるの?」
太ってて沢山食べそうだから、と言われたらショックで寝込むかもしれなかった。だけど職員室に呼び出され、きょとんとしていた彼は少し考えてからこう答えた。
「だって先生は大人だから、子どもの僕たちよりたくさん食べると思ったんです」
おわり
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