息子よ、向上心を持って邁進せよ

2016年1月8日の金曜日、ホームセンターに合鍵を作りに行った。
1月12日から熊本に移住するため、
留守中、家を息子のハルに開放することにして、
家の合鍵を作りに行ったのだ。

うちの鍵はちょっと特殊な電子ロックになっていて、
ホームセンターの合鍵コーナーには、
同じ形の鍵の在庫が一本しかなく、
しかも合鍵の作製時間は4時間ほどかかり、
料金は3500円ほどするがいいかと言われた。

断るという選択肢はなかったので、
鍵をあずけてお願いすると、
30分ほどして携帯に電話がかかってきた。
「実は製作工程を間違えてしまいまして、
今日は合鍵を作れなくなってしまいました。」
ということであった。

ただ、形を削るだけの合鍵ではなかったので、
工程をひとつ間違えたら、作り直しになるという。
しかも鍵の在庫が一本しかなかったので、
連休明けまで材料が届かないというのであった。

この近所に合鍵屋さんはありますか?と聞くと、
そんなに近所でもないが、夢タウンの中にあるという。
それで夢タウンまで移動して合鍵をお願いすると、
30分くらいかかります。
値段は2200円ですが、よろしいでしょうか?
と言うのである。

先ほどは4時間かかって3500円と言われ、
しかも途中で失敗して作れなくなったので、
なんとなく得した気分であった。

合鍵を作って家に帰り、
ハルの部活が終わるのを待って会った。
いいか、この家は自由に使っていい、
でも、チャッピー(うちの奥さん)の荷物もあるから、
お前以外の人を家にいれてはいけない、
ただ例外的に、お前に彼女ができて、
その子と2人で時間を過ごしたい時だけは、
2人で使っていい、
しかし相手にはひとつだけ条件がある。
ブスは禁止だ。ブスとは付き合うな、と言い渡した。

ブスって、一人一人基準が違うと思うけど、
とハルが言うので、
それじゃガイドラインを作っておこうということで、
「○○○○は?」というと、
「まあ、ブスなんじゃないの」、
「それじゃ△△△△は?」というと、
「僕はブスじゃないと思うけど」、
「お前は不合格だ、鍵は没収する」
などと、ひとしきり遊んで、
ハルに合鍵を渡して別れた。

ハルよ、お前にはまだわからないと思うが、
ブスな女の子がブスに生まれてくるのには、
それなりの理由があるんだ。
敢えて自分で望んでブスに生まれてくるのだから、
その子はそれなりの深い心の闇をかかえている。
お前にはまだ難しい、やっかいな問題だ。

ブスの心の闇を堪能して消化するのは、
コノワタを肴に冷酒を味わうような、
高度なグルメの嗜みなんだ。
お前はまだ、唐揚げとか卵焼きとかの、
わかりやすくおいしいおかずで、
白飯をバクバク食ってりゃいいんだ。
おかずクラブはちょっと早過ぎる。
三吉彩花とか、桜井日奈子とかにしておけ、
そうやってスクスク大きくなってくれ。

と、2016年頃には思っていた。このときのマンションは改装して賃貸で貸しており、現在売却の広告を出している。今の僕の推しは小松奈菜と浜辺美波だ。このようなプロセスで移住した熊本は僕にとっては散々な街で、5年間ほとんどいいことがなかった。そしてその頃元気だった父と母はこの5年ですっかり弱ってしまい、僕は母の介護をする父の手助けをするために、もうすぐ福岡に引っ越すことになりそうだ。

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