「自分を褒めてあげられる行動」で環境は変わる? “乾燥廃棄やさい”仕掛け人が勧める「自己肯定」から始める社会貢献
自分が行動を起こしたとしても、きっと大海の一滴にしかならない。そうやって気持ちに歯止めをかけてきた人もいると思います。
そんな私たちに対して「『自分がやりたいからやる』 でいいじゃん!」と背中を押してくれたのが、株式会社hakken代表の竹井淳平さん。
消費者の手に届く前に捨てられてしまう野菜を救う乾燥廃棄やさいプロジェクト「UNDR12」を運営する彼が、一歩を踏み出したきっかけとは…?
課題に気づける「センスのいい自分」を褒めてあげよう!
ーー環境課題に対して何かしようと思っても、自分1人がやったところで、何も変わらないと思ってしまいます…。どうしたらもっと前向きになれますか?
竹井さん:
それは…センスがいいですね…!
ーーセンス?
竹井さん:
現状に違和感を持てるかどうかは、その人のセンスの問題です。
最近は環境課題が単なるPRで取り上げられることが多いけど、それは自発的に考えられる人が少ないからだと思うんですよ。だから、まずは気づくことができた自分を褒めてあげて!
ーーでも、気づいただけで何もしてないですよ…。
竹井さん:
別に大きなことをする必要はないんですよ!
今の若者たちは、違和感に気づいている人が圧倒的に多いから、そんな自分を肯定して、「自分を褒めてあげられるような行動」を少しずつ増やしていくだけでも全然違いますよ。
それも、「地球を変えよう!」じゃなくて、「自分がやりたいからやる!」という利己的な姿勢でいい。
竹井さん:
たとえば、何かスポーツを始めるとき、「自分は大谷翔平選手みたいにはなれないから、野球はやらない」とはなりませんよね。やりたいからやるんでしょ?
僕がやっている活動も、社会から見れば小さなことだけど、やらないよりはやったほうがいいと思って始めましたから。
ーーちなみに、違和感に気づいていない人たちに対してはどうすればいいんですか?
竹井さん:
特になにもせず、そのままでいいと思います。
ーーえぇー…。
竹井さん:
それは、歌が苦手な人に「歌手になれ」と言うようなものだからね。
自分の行動が絶対的な正義だと思い込んで他の人を批判したり、地球にいい行動を人に押し付けるのは違う。
よく環境課題について発言すると「地球温暖化の原因はCO2ではない!」と批判する人もいますが、そこで白黒つけて対立したり、正義を振りかざしたりする必要はないんです。
課題を解決するために必要なことは、自分のやっていることに集中して、まわりの人がやっていることも認めること。
「自分がどんなことをすれば気分が上がるのか」「誰を幸せにできるのか」に集中すれば、他者を批判せずに認め合っていけると思います。「みんな、放っておこう」のスタンスでいこう!
ーーもし、今は違和感がないけど、自分なりに違和感を見つけたいと思う人にはどんなアドバイスをしますか?
竹井さん:
そういう人は、海外に行ってみるといいと思います。日本はすごく豊かな国なので、僕たちは自分が持っているものを忘れてしまいがちなんです。
普段生活している環境から離れることで自分がいかに満たされているか気づくはずなので、そこを起点に社会に対する違和感を探してみてください。
でも、無理して違和感を持ってほしいとは言いません。違和感を持つのが難しい人は、別のところで努力すればいいんですよ。
今の10代や20代は違和感に気づいている人が圧倒的に多く、世代が上がるごとになかなか感じづらくなっていきます。だから、気づいていない側は気づいている側がアクションを起こせるように、そっと手を差し伸べてあげられれば、世界はキレイに回っていくと思います。
そうやってお互いに協力し合いながら、自分たちが行動を周りに伝播させて、一緒に行動してくれる人数をいかに増やすかが大事なんです。
日本で捨てられる野菜は年間400万トン。調べていくうちに感じた現状への「気持ち悪さ」
ーー竹井さんは、どのようなきっかけで「違和感」に気づいたんですか?
竹井さん:
僕は、もともと商社で“自然環境を換金するようなプロジェクト”を任されていたんですよ。
世界中の資源がたくさんある土地を買い取って、石炭や鉄鉱石を採掘するという事業です。金銭的なリターンは大きく、うまくいけば僕は出世できるし、もらえる報酬も増えます。
でも、あるときふと、「現地の自然環境や文化が、先進国の余剰利益の犠牲になっているのではないか?」という疑問を感じたんです。
そこで、有機野菜の事業に参加したり、アフリカのモザンビークやブラジルに赴任していた時は、原住民の暮らしや食糧システム、貧困層の現実に触れたりする機会を得ました。
そして、疑問を掘っていけば掘っていくほど、「このままではいけない!」と焦燥に駆られて独立を決意したんです。
ーー仕事をするなかで、現状に疑問を覚えたと。
竹井さん:
何年も先の報酬や昇進よりも、目の前で起こっている問題を解決することのほうがずっと重要だなって。むしろ、それ以上に充足感を得られることはないんじゃないか…と思っています。
竹井さん:
数ある環境課題のなかに、日本の食品ロス問題もあります。
日本ではまだ食べられるのにも関わらず、消費者の手に届く前に捨てられてしまう野菜が年間に400万トン以上もあるんです。
その量は、2020年にWFP(国際連合世界食糧計画)が世界の貧困層へと送った食料品の支援の量とほとんど同じ量なんですよ。
ーーえっ、そんなに…!
竹井さん:
もし、それが捨てられることなく、食に困っている人に届けられたなら、世界の貧困層の命が救えているはずなんです。
この事実が気持ち悪くて、やるせなくて…。自分のできることをやろうと思って立ち上げたのが、乾燥廃棄やさいプロジェクト「UNDR12」なんです。
「食品ロス」と「CO2削減」。乾燥野菜が解決する2つの課題
ーー乾燥廃棄やさいプロジェクト「UNDR12」はどんな事業なんですか?
竹井さん:
まだおいしく食べられるのに、「色や形が悪い」「傷がついてしまった」など、さまざまな理由で廃棄される野菜を農家さんから回収し、専用の乾燥機で加工・販売するプロジェクトです。
野菜の水分量を12%以下(UNDER12)まで乾燥させることで、添加物を使用することなく長期保存ができ、野菜の栄養素や旨味が凝縮され、少ない量でもたっぷりの栄養を摂ることができます。
そのまま食べることもできますし、パスタやカレーに入れるなど、楽しみ方は何通りもあります。生野菜が苦手な方でも食べやすいというお声もありますね!
ーースナック感覚で食べられそう。なぜ、食品ロスのなかでも野菜に目を付けられたのでしょうか?
竹井さん:
前職で働きながら、有機野菜を促進するプロジェクトに携わっていたことで、農家の方々と交流をしたり、日本の農業の現状を目の当たりにしてきたことが大きなきっかけでした。
また、乾燥野菜を始めようと思った理由は、廃棄にかかるエネルギーと運搬時に排出される膨大なCO2にもあります。
野菜は9割が水分なので重量が大きく、大型運送車が必要なことに加え、日本では野菜が生産される土地と消費される土地は離れていることが多いので、運搬過程で大量のCO2が排出されます。それを生ゴミとして焼却すると通常のゴミ以上の燃焼力が必要になり、結果として食品ロスは、全世界の飛行機の7倍のCO2排出総量に達すると報告されています。
そんな野菜を乾燥させて販売できれば、「食品ロス削減」と「CO2削減」の両方を叶えられると考えたんです。
ーー1つの事業で、2つの環境課題が解決できるんですね!
竹井さん:
これを食材として取り扱ってくれれば企業は今まで使っていた仕入れを切り替えるだけで環境課題に貢献することができます。
オンラインショップで一般販売も行っているので、おうちでおいしい乾燥野菜を食べながら、食品ロスについて考えるきっかけにもなってほしいですね。
小さな力をまとめて、社会を変える大きな流れへと変えていくために
ーーありがとうございます。最後に竹井さんの今後の展望を教えてください!
竹井さん:
今後は「UNDR12」をフランチャイズ化して、協力してくれる方を増やしていきたいですね。
現在は福島、兵庫、熊本など、全国6拠点がありますが、僕たちだけでやれることには限界があります。実際に、熊本の作業所には毎日150キロ以上の野菜が届きますが、その量は周辺地域で捨てられている野菜の1%にも満たないんですよ。
今は、大企業に乾燥野菜を大量に仕入れたいと連絡をもらったとしても、1つの作業所だけでは対応できない状況です。
竹井さん:
だからこそ、今後は「乾燥野菜を広める仕組み」を作る側になります。乾燥野菜の特許やノウハウで市場のパイを握るのではなく、野菜の集め方から乾燥の方法までをすべてを公開することで全国の拠点の窓口となり、流通を拡大していきます。
プロジェクトを通じて全国の地域を盛り上げながら、食品ロスを減らし、関わった人々も豊かになってもらう。
収益は事業の持続に不可欠ですが、ゴールは自社の独り勝ちではなく社会が動くことです。
それぞれは小さな力かもしれませんが、僕たちがまとめあげることで、社会を変えられるような1つの大きな流れにしていきたいです。
(取材・執筆=目次ほたる(@kosyo0821)/編集=いしかわゆき(@milkprincess17)/(撮影=深谷亮介(@nrmshr))
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