ショートショート×エッセイ「化け物に脳を食まれて」
プロローグ
私は化け物を飼っている。
そいつは犬の内臓に寄生するフィラリアのように、私の脳をがっつりと掴んで離さない。
巷ではこの化け物に侵された状態を、「精神疾患」というらしい。
ばかばかしい。
みんな分かっていないんだ。
10年以上この状態が続いている私には分かる。
これは化け物に脳を食まれる感覚なんだ。
だから1度この状態に陥ってしまうと、もうそれ以前には戻れない。
だって脳を食われているのだから。
いつだっただろうか。
この化け物との出会いは。
気づけば私の脳内にそいつはいた。
思い出せないくらいずっと昔から、私は化け物に寄生されている。
こいつのせいで私は「頭がおかしい」呼ばわりされる始末だ。
やれやれ。
私がおかしいのではない。
いかれているのはこの化け物の方なのだ。
楽しいのに怖い。
大丈夫と分かっているのに不安になる。
何百、何千と同じことを確認してしまう。
「死」から一番遠い所にいても、死ぬような恐怖に押しつぶされそうになる。
死ぬよりひどい何かに、心身を侵略されてしまうのではないかという幻想に駆られてしまう。
そして、あれだけ恐れていた「死」に魅せられるようになる。
そして、生きていくことが怖くなった。
自分自身を信じられなくなった。
もう元には戻れない。
そんな予感がして、病院に行くと「不安障害」、「強迫性障害」との診断が下りた。
10年以上治療を継続しても完治はしないことで私は気づいた。
私の中に化け物が住んでいることに。
その化け物が私の脳を餌にしているから、治らないのだ。
失ったものはもう戻らない。
食まれた脳はどんな薬でも修復できない。
別にいいか。
化け物と出会ったばかりの頃はそいつを追い出そうとやっきになっていたのだけれど、いつしかその存在を受容できるようになって愛しさまで感じるようになった。
もちろん、憎んだことは数知れず。
この身ごと焼き尽くすことも考えた。
憎悪と悲嘆で眠れない夜を過ごした。
愛憎の狭間で揺れる心はどこへ行くのだろう。
どこへだって行けばいいさ。
私はこいつを連れてどこへだって行く。
「頭がおかしい。」
そう言って同級生は私を虚仮にした。
「変わっている。」
そういって大人は私を気味悪がった。
ああ、そうかい。
次はこの化け物が、お前たちに噛みつく日が来るだろう。
そしたらきっと分かるよね。
私はこの壊れた脳で、この化け物を抱えて生きていく。
いつかきっと飼い馴らしてみせるさ。
化け物はぷいっとそっぽを向く。
不満そうに私の脳を揺らした。
久しぶりの創作です。
メンタルダウンした日に書きました。
お気に召して頂けましたら、記事のサポートをお願いします。
最後までお読みいただきありがとうございました。
よづきでした。
この記事が参加している募集
応援してくださる方は、もしよろしければサポートをお願いします。頂いたサポートは病気の治療費に使わせて頂きます。