奇跡
感情のない書類をやりとりして
エレベーターを待つ
巨大な吹き抜けを覗き込むと
人々がつまらない会話をしている
目がくらむようなビル
わざとらしく匂いを立てる店
けばけばしい車のクラクション
足早に歩く勤め人たち
街中にある学校の裏に小径がある
入ってみるとイチョウから黄色
あっ僕を呼ぶ懐かしい声
いや子どもが呼び合う声だ
他に人影はない
冷たい空気が僕を包む
枯れ葉を踏む音が響き
車の音が遠ざかっていく
誰かの声
「奇跡はある」
小径を抜けてまたビルに入る
エスカレーターを乗り継ぎ
また形式的に書類をやりとりする
なけなしの金を払う
ここへはもう何度も来た
同じ場所に車を停め
同じ道をいつも歩いた
あの小径が違うだけだ
僕は車に戻ろうとして
もう一度小径に向かう
ほらまた遠くに子どもの声
旅立つ前のヒヨドリの声もする
誰かの声
「奇跡はある」
僕は淡々と日々をやり過ごし
やむをえない事務をこなし
したくもない会話を重ね
金を受け取り金を払う
渋滞でクラクションも鳴らさず
すり抜けるバイクに腕も振らない
大声で話す男たちの間を抜け
店に入りまずい飯を食う
夜はちっとも眠れないから
車を停めていま少し眠ろう
そういえばここは
あなたと歩いた並木の道だ
誰かの声
びくりとする
誰かの声
「奇跡はある」
目を覚ました僕は
すべてを理解する
サンルーフから光が射して
耳元であなたの声がする
僕は声に出して言う
「奇跡はあるんだ」
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