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遠くへ

おっかなびっくりだった
もうたくさんだと思っていたから
月の下であなたの顔は美しかった
でも怖くてたまらなかったの

ただどこかへ行きたかった
こんな場所じゃなければどこへでも
誰かに手を強く引いてほしかった
だから暗闇でひとり立っていたの

混雑する通勤電車のホームでも
人を掻き分けてあなたを探したわ
自分を馬鹿だと思ったけれど
汗をかいて歩き回ったの

あなたも探してくれていたの
わたしを見つけたあなたは
いたずらっ子の笑顔で
黙ったまま手を握った


あなたの言葉は乱暴だけど
心が澄んでいるとすぐわかった
ごわついた大きな手で優しく触れて
いつだってわたしを笑わせた

わたしが投げた言葉で
あなたはうまく歌ってみせた
おどけた顔で油断させて
真剣な顔で胸を締めつけた

わたしたちはいつも
お互いの瞳の奥を見つめた
身体を激しく震わせて
黄泉の扉が開きそうなときも


美しいときは過ぎて
わたしたちはまだ
どこへも行けない


たくさんの秋が過ぎたのに
ふたりで秋桜を見たことがない
わたしたちが歩くときはいつも
灼熱か氷点下なのよ

ずっとずっと長い長いあいだ
ほんとうにずっとずっと
わたしは待っていたの
海の向こう側に行けるときを

雲の間から光が射しこみ
黒い海面を静かに照らす
激しいうねりを超えたなら
わたしたちの新しい島に着く


雨の音を聞いてお茶を飲み
虫に囲まれて畑をつくる
ふたりで毛布にくるまって
いなくなったちびたちも一緒

薪がはぜる音で目が覚めたら
窓を開けて雪を掬う
真っ黒な夜の端っこで
白い今日が生まれるのを見るわ


美しいときがきても
わたしたちはまだ
どこへも行けない


どうしてなの
いつまで待てばいいの
あなたの手は重い荷で塞がって
わたしを抱くこともできない

どうしてなの
あなたは疲れ果てて
私の問いかけに俯いて
ただ寂しげに笑うだけね


涙は枯れたと言っていたのに
あなたは泣いている


遠くへ行くわ
もうひとりで行く


Somewhere over the Rainbow

※この詩と動画の曲は、多少の刺激を得ていることを除けば、関係はありません。


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