「失われた時を求めて」と「プルーストを読む生活」を読み終えた
去年の10月より、「失われた時を求めて」と「プルーストを読む生活」を読みながら感想を書いてきた。それがやっと終わった。今回は「失われた時を求めて」の内容に触れずに、ネタバレ無しで何かまとめたい。
いつかは俺も
「失われた時を求めて」は長年の読書生活において、いつかは読みたい本の一つだった。これまでにも「カラマーゾフの兄弟」や「百年の孤独」といった、長めの「いつかは俺も」本を通ってきた。それらと比べても、「失われた時を求めて」は特に長かった。作品そのものだけでなく、読み終えるまでかかった期間も長い。カラマーゾフは5巻、百年の孤独は一冊だけど二段組。読み終えるまでにかかった期間は、せいぜい2週間か長くても一ヶ月程度。「失われた時を求めて」14巻を読み終えるのにかかった期間は、1年と2ヶ月。比較にならない。
ただこれには僕の個人的な事情があり、1ヶ月に1冊しか進まない時期もあれば、3ヶ月に1冊しか読めない時期もあった。長い期間読んでいると、ずっと同じペースで進まない。ところどころ内容が難しいというより、スムーズなときもあれば、時間がかかる時期もある。読むのが速い人だったら、半年かからず読み終えることができるだろう。
長い時間はかかったが、無事最後まで読み終えることができてよかった。文庫とは言え分厚い本の束が、タンスの肥やしにならずに済んだ。他の「いつかは俺も」本も、いつか手を出したいと思っている。フォークナー、ジェイムス・ジョイス、「白痴」や「悪霊」も残っている。「いつかは俺も」本のはしりは「罪と罰」だった。これは読んでみれば意外とすんなり読めた。
「失われた時を求めて」とはなんだったか
「失われた時を求めて」の内容に触れず、「失われた時を求めて」とはなんだったか。今のところ長い小説という以外何も言ってない。映画も小説も、事前情報無しで作品に触れるのが一番いい。読まずに内容だけ知ったかぶりしたい人は、ぜひ私の読書日記を読んでみてください。これも本一冊分ぐらいの分量はあるけれど、「失われた時を求めて」よりは短い。
「失われた時を求めて」は長い古典文学で、それも原著はフランス語で書かれた翻訳小説で、読みにくい。その性質上、僕は「失われた時を求めて」の読書体験をプルーストマラソンと呼んでいた。毎日ではなくても少しずつ、休みもいれつつ、完走するのが目標だった。読めてよかったと思います。完走できたこともよかったけれど、何より「失われた時を求めて」とはなんだったのか、その内実に触れることができてよかった。
読めばわかる、というたぐいの作品でもないけれど、読まないよりはわかる。あらすじを読んだだけでは、ましてや読書日記を読んでもその真髄にはたどり着けない。読まないことには。僕が読んだ岩波文庫版は、全14巻の1巻ごとにそこそこの分量の訳者あとがきがついている。僕はネタバレを避けるために、あとがきを全て飛ばしてきた。これからあとがきを順番に読みつつ、作品を振り返る。二巡目の楽しみ。
それ以外にも、「失われた時を求めて」について書かれた本を読む楽しみが待っている。他の人が「失われた時を求めて」をどう読んだのか。「収容所のプルースト」「謎とき 失われた時を求めて」あたりはもう購入して手元に置いている。「失われた時を求めて」を読み終えた人だけが入ることのできる、「失われた時を求めて」を起点に広がる世界がある。いつかもしフランスへ行くことがあれば、きっとイリエ=コンブレーも訪れるだろう。
「プルーストを読む生活」について
「失われた時を求めて」を読むにあたり、並走する形で「プルーストを読む生活」を読んだ。「プルーストを読む生活」は、毎日の日記と、著者が今日はどこまで「失われた時を求めて」読んだか、ページ数がふられている。ただ「プルーストを読む生活」の著者は、全10巻のちくま文庫で読んでおり、僕が読んだ岩波文庫とはページが対応していない。だから結局は、ページ数を見ても著者がどこまで読んだのか検討つかない。
著者が「失われた時を求めて」の感想を日記の本文中に書いている日は、どこまで読んだかわかる。著者も僕も読むペースがまちまちで、感想を読んでうっかりネタバレを食らってしまったことが何度かあった。著者は「プルーストを読む生活」に、「失われた時を求めて」の感想を全然書いていない。内容のほどんどはただの日記だったり、他の本を読んだ記録で占められていた。あと引用。
著者は保坂和志が好きらしく、保坂和志に倣っていろんな本の引用をしまくる。この本の半分ぐらいは引用なんじゃないかと思うぐらい。部分引用だから、そこだけ抜粋されても何のことかわからない。引用箇所について、特に説明も解説もない。著者が見ればきっとわかるのだろう。論文じゃないけど、引用要件は満たしてないのではないか。著者は引用ではなく「引き写し」と言っている。気に入った文章をコピーしているだけのようだ。
それでも、実際「プルーストを読む生活」は役に立った。「プルーストを読む生活」を併読していなければ、プルーストマラソンの完走はめげていたかもしれない。そんなことはないか。読書の完走はしていても、感想を書き続ける完走はしていなかったかもしれない。僕の日記を読めばわかってもらえると思うけど、「失われた時を求めて」の鬱憤を、「プルーストを読む生活」で晴らしていたところがある。ガス抜きとして大いに役立った。マラソンで言うところのクーリングダウンにあたる。
プルーストマラソンに挑戦したいけれど、完走できる自信がないという人に、「プルーストを読む生活」の並走をおすすめします。本気で。
「失われた時を求めて」と「プルーストを読む生活」を読む 1 〜 126
2021年10月3日〜2022年12月20日
「失われた時を求めて」14巻 計6952ページ
「プルーストを読む生活」749ページ
完走
2021年12月、途中まで読んだ段階でアトロクに送ったメールが読まれました
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