古典の話 掌編小説
「この前本屋で流行りの自己啓発本を立ち読みしたら、古典にも同じこと書いてあるよ、みたいなのがいっぱい載ってて」
「へえ。好きなの、そういう古いやつ」
「ものすごくってわけじゃないですけど、人間て変わらないんだなって感じで面白いですよ。分かったフリして笑って頷いておいて、実は何にも分かってない人っているよね、とか。
最近グサッときたのは、全ての欠点をなくしたいと思うなら、何事にも誠意を持って人を分け隔てず、礼儀正しく口数が少ないに勝るものはない、てやつです」
「これはなかなか、刺さりますな」
「そうでしょう」
「古典とか懐かしいなあ。昔、源氏物語に出てくる犬君(いぬき)のことをずっとワンちゃんの同義語だと思ってた」
「あは。いぬくん。でも最終的に人だって分かったならよかったんじゃないですか」
「まあね。あと先生の趣味だったのか授業で枕草子の話を飽きるほど聴かされたの覚えてるな」
「春はあけぼの、夏は夜、秋は夕暮れ、冬は働け」
「つとめて、な。早朝って意味な」
「冗談ですよ」
「そこなに難しい話してんのー。飲んでます? 酔っ払っちゃったからあ、じゃあ百人一首でも詠んじゃおっかな。うーん……えーっと……あ、また来ますね。二人も楽しんでー!」
「すごい足ふらついてるけど大丈夫かあれ。百人一首、百人いないとできないし」
「……聞こえぬことども言ひつつ、よろめきたる、いとかはゆし」
「ん?」
「いえ。ああなる前にそろそろ帰ろうかなって」
「それもそうだな」
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