カミュの陽射しに微睡む #35
連休中に読もうとがむばって仕入れた大著は、けっきょく一冊も読まなかった(読めなかった)。
斯くして積読の魔の山はまたもその高さを増したのであった。まあ、そんなもんだよね。
その代わり、というわけでもないが、カミュ『ペスト』を読む。中条省平訳、光文社古典新訳文庫。
そのまえに読んでいた『感染症の歴史学』(岩波新書)で『ペスト』のことが想い出され、積読の山から引っ張り出された。
僕にとって『ペスト』はこの数年の挫折本であった。新訳の出てすぐに買われ読んだから、挫折したのは二年半ほど前だ。
まだコロナ禍の深刻な状況下のなかにあって、答えあわせのような読書がしんどくなり、三分の一ほど読んだあたりで止めてしまった。
こんどもやはり難解ではあったが、何とか最後まで読むことができた。
カミュの小説は『異邦人』くらいしか読んだことがなかったが、この『ペスト』も、陽射しの強い小説だなあ、とかんじる。
舞台が冬だろうが何だろうが、全体に眩しく、茹だるように暑い。全篇が夏。
それも東京にいるとちょっと経験できないような種類の暑さで、頭がボーッとして眠くなる。実際、途中居眠りをしながら、ハッと目覚めてまたつづきを読む。途中寝てたところはよくわからなくても、まあいいやというかんじで読みすすめていくと、まただんだん面白くなって、それでしばらく進むとまた眠たくなって、というのを繰り返す。
カフカみたいに不条理で、かと云って滑稽ではなく、人物はみな真摯に生きており、好感がもてる。
抑圧的で哲学的だが、人物に温かみがある、という点は、大江健三郎の諸作品にも共通する、とかんじる。ユマニスム、グロテスク・リアリズム。
人物のなかでは、事務仕事をしながら小説を書いているグランが僕のお気に入りだ。
他の人物にもそれぞれに背景と見せ場が用意され、すべてに肩入れできるのは、僕らもコロナ禍という災厄を通り過ぎてきたからかもしれない。
『ペスト』の訳は、他にも新潮文庫と岩波文庫がある。
別訳も読み比べてみると、よくわからなかった部分がわかるかもしれない。それは日を置いてまたいずれ。
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