ナマハゲの役割
東京の飲食店は世界から見ても激アツスポットだと思う。
世界中の味が楽しめるし、日本中の郷土料理も集まっている。私の住む街だけでも徳島料理、沖縄料理、三重料理、博多料理等など、様々な郷土料理が頂ける。
コロナ前は、外国人観光客をターゲットにした日本文化推しのレストランが次々とオープンしていた。そして、それぞれエンターテインメント性を高め、それを売りにしていた店も多かった。例えば、土俵のあるちゃんこ鍋屋さんや沖縄の歌手がライブで歌を聞かせてくれる沖縄料理屋さん。中でも、少し話題になっていたのは「なまはげショー」のある秋田料理屋さんだった。
今からする話は、とある紳士から聞いた彼のご家族のお話だ。
初孫が生まれたお祝いに、次男夫婦と首が据わったばかりの赤ん坊、自分たち夫婦、そして独身を謳歌する長男の六人で秋田料理を食べに出掛けた時のことだった。このレストランは「なまはげショー」を売りにしている。今回は、なまはげに赤ん坊の厄払いをしてもらおうという気持ちでこの店を選んだ。我ながらよいチョイスに思えた。
美味しい料理に舌鼓を打ち、宴もたけなわの頃だった。
「悪い子いねがー!?」
「泣く子はいねがー!?」
という声と共に、遠くから順番に子供の泣き叫ぶ声が聞こえてきた。なまはげの声が徐々に自分達の部屋にも近づいてくる。
「悪い子いねがー!!?」
勢いよく個室の障子が開いた。
赤い鬼の形相をしたナマハゲが現れ、大きな声で「泣く子はいねがー!?」と凄みながら部屋に乗り込んで来た。
家族は、歓声を上げてなまはげを迎え、赤ん坊を差し出した。
なまはげは赤ん坊を抱いて、張り切って「悪い子でねえがー?」を顔を近づける。さぁ、泣くぞ、泣くぞ。
スン…
赤ん坊は無反応なまま、なまはげをじっと見る。
「悪い子でねえがー!?」
今一度なまはげが赤ん坊に凄む。
スン…
少し気まずい空気が流れた。
ここで次男嫁が立ち上がる。
「やあねぇ。なんで泣かないの?」
なまはげから赤ん坊を引き取り顔を覗き込んで揺らす。
本来なら、なまはげが赤ん坊に凄み、赤ん坊がギャン泣きして禊が終わる。ところがこの赤ん坊は肝が座っているのか、一向に泣き出さない。
「う、うん、悪い子はいねぇんだな?」
なまはげがいささか凄みを落として立ち去ろうとした時だった。
「悪い子はここにいます!」
妻が立ち上がり、長男を指差した。
ポカンとする長男。
妻は長男をなまはげに差し出し「この子はいつまでも結婚しないんです!もういい歳なのにいつまでも全然結婚しない…!!」と長男に対する不満をなまはげに訴えた。
なまはげは思わぬ展開に少しうろたえたが、もともと真面目な性格なのだろう。こう言葉を残した。
「うん、人それぞれいろんな生き方がある。うん、まぁ、そうだな。それはそれで、自分のペースで頑張ってほしい」
もはや、なまはげの仕事の範疇を超えていたが、なまはげは立派に仕事をこなしてくれた。なまはげショーのお店を予約した意味はあったのだ―――。
なまはげって案外なんでもやってくれるんですね。
#なまはげ #とは #秋田料理 #きりたんぽ #なくごはいねがー
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