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なぜ、武術なのか⑹〜相手と衝突しなさいという教え
⑧欠けている視点
” できない ” を ” できる ” に変えていくために必要なことは何だろうか?
私は自分自身のことを、「恵まれてない」「才能がない」「能力がない」と思っている。
良い人間になりたいし、すごい人になりたいと思いながらも、どうせ自分はダメな人間だからと思って、何かをやる前から諦めることも多い。
このようなネガティブな思考や感情を身についてしまうと、そこから抜け出すのはなかなか難しい。
自分ではポジティブなつもりでも、ただの皮肉屋になっているだけだったりするし、結局は上手くいかないことを他人のせいにして逃げてしまう。
しかも40歳も目前になってきて、こんなダメな自分を変えたくても、意志の力だけで自分の気質や性格を変えることは本当に困難だと思う。
種類は違っても、私と同じようにネガティブな思考や感情が原因で、何かをやる前から諦めてしまっている人は多いのではないだろうか?
この問題を武術的にみたとき、欠けている視点があると思う。
これは、武術の稽古における” 技がかかる、かからない ”理由と同じ視点で見ることができる。
では、この欠けている視点とは何だろうか?
それは、『調和』という視点だ。
この『調和』という視点とは何かといと、『調和の理解』ということになる。
人・物・事と調和するということがどういうことかを、理解できていないということだ。
では、” 調和する ”とはどういうことだろうか?
ここでポイントとなるキーワードがある。
それが『衝突』である。
皆さんは、” 人や物、事柄と衝突するな(ぶつかるな) ”と言われてきたのではないだろうか?
でもこれって、本当に正しいのか考えたことのある人はどれだけいるだろうか?
正直、いないと思う。
だからみんな、そもそも衝突しないための処世術や方法を学ぶ。
しかし武術を学ぶ中で、私が師から言われたのは、『衝突しなさい!』ということだった。
なぜか?
例えば、物質と物質の間には作用と反作用が働く。
作用と反作用とは何か?
自分が与えた力と同量の力が相手から返ってくる『衝突』だ。
寝ていようが起きていようが、立っていようが座っていようが、人間が地球上に存在する限りこの作用からは逃れられない。
物理法則においてそうであるように、自分という存在が何か他の人・物・事と対するとき、衝突というのは必ず起こっているのだ。
それにもかかわらず、実際にやっていることは、この衝突を無視した振る舞いになってはいないだろうか?
私が言いたいのは、世の中にある多くの方法論を否定することではない。
しかし、どんなに正しい公式を使っても、実際に公式に代入する数値を無視したり間違えていたら正しい答えは出ないと思う。
だからこそ実際に起こっている『衝突』というのは、皆さんが使う公式に代入しないといけない数値になる、ということだ。
そして衝突は、状況によって変化する『変数』でもある。
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それなのに私たちには、この『衝突』をする方法や、制御するという発想を学ぶ機会がない。
このことは、大きな問題だろう。
さて、ここで本題の” 調和とは何か? ”ということだが、この答えを導くためには、『調和』という文字の意味を考えていく必要がある。
調和という字をみると‥
調 ⇨ 情報を集めて分解・分析する、『情報整理』
和 ⇨ 何かしらの要素で釣り合いをとる、『平衡』
という意味になる。
和⇨平衡というのは分かりにくいかもしれないので、少し補足説明をしておく。
” 和 ”とは、和(あ)えるとも読む。
和えるとは、
魚介類・野菜などをみそ(酢・ごま)などでまぜあわせる。
ことだ。
食材と調味料をまぜあわせて、料理として味の釣り合いをとっていることになる。
つまり、味の『平衡』をとっているのである。
このことからも分かるように、『調和』とは、自分と人・物・事との情報を整理し、平衡をとっていくことである。
情報整理とは、自分と対象となる人・物・事との間で起こっている衝突の量・方向・位置を知ることと言える。
対象となる人・物・事から受ける情報というのは意識して読み取るには膨大な量になる。
だからこそ武術を学ぶことで、情報を受けとり整理するというこの一連の処理を、型の稽古など相手と接触する体感覚として身につけられることは、大きな利点となる。