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Book Review:『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』
「全身全霊から半身へ」
本の紹介
『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』(集英社新書、2024年4月17日刊)は、読書と労働の関係に焦点を当てた三宅香帆氏による渾身の一冊です。
本書は、大人になってから読書を楽しむことが難しくなる背景を探り、仕事に追われて趣味が後回しになる現代人の悩みに応える内容となっています。
著者は自身の兼業執筆活動を通じて、労働と読書の歴史的な変遷を解明し、日本社会における「仕事と趣味」の在り方を鋭く批評しています。
本書は、働く読書家にとっての「あるべき姿」を問いかけるとともに、読書の価値を再発見させてくれる一冊です。
目次
まえがき 本が読めなかったから、会社をやめました
序章 労働と読書は両立しない?
第一章 労働を煽る自己啓発書の誕生―明治時代
第二章 「教養」が隔てたサラリーマン階級と労働者階級―大正時代
第三章 戦前サラリーマンはなぜ「円本」を買ったのか?―昭和戦前・戦中
第四章 「ビジネスマン」に読まれたベストセラー―1950~60年代
第五章 司馬遼太郎の文庫本を読むサラリーマン―1970年代
第六章 女たちのカルチャーセンターとミリオンセラー―1980年代
第七章 行動と経済の時代への転換点―1990年代
第八章 仕事がアイデンティティになる社会―2000年代
第九章 読書は人生の「ノイズ」なのか?―2010年代
最終章 「全身全霊」をやめませんか
あとがき 働きながら本を読むコツをお伝えします
本書の重要なキーワード
全身全霊から半身へ:仕事に全身全霊を注ぎ込む生き方を見直し、半身で仕事に向き合うことで趣味や読書に余裕を持つライフスタイルを提案。
教養:特権的なものとして位置づけられた知識の格差。
歴史:労働と読書の関係を時代ごとに追跡。
サラリーマン:特に戦後の労働者階級としてのサラリーマン像。
司馬史観:1970年代に文庫本ブームを支えた司馬遼太郎の影響。よくある事例として、「明治の日本じはすごかった。しかし、昭和あたりから本来の姿を忘れてしまった」的な歴史観は司馬史観そのもの。
近現代労働史:日本の労働環境の変遷。
自己啓発:労働を正当化し、向上心を煽るツールとしての読書。
読書史:読書が娯楽から情報収集、自己改善の手段へと変容した歴史。
本書の注目すべきポイント
全身全霊から半身への転換
本書の中心的なメッセージは「仕事は半身で」という考え方です。仕事に全てを捧げるのではなく、余白を持つことで読書や趣味に時間を割けるようになるという視点が新鮮です。
労働と趣味の対立構造に切り込む鋭さ
働きながら読書を楽しむことが困難な理由を歴史的、社会的背景から解明しています。特に、明治時代の自己啓発書の誕生や、戦後の「円本」ブームといった事例が、読者に深い洞察を与えます。
読書の意義を問い直す
「読書は人生のノイズ」として扱われがちな現代社会において、本書は読書の持つ内面的自由や精神的充足感を再評価しています。具体的なエピソードの豊富さ
著者自身の経験や、歴史的なエピソードが具体的かつリアルに描かれており、読者が共感しやすい構成となっています。読書と労働の新しい関係性を提案
「全身全霊ではなく半身で仕事を」というメッセージを通じて、読書を単なる趣味としてではなく、人生を豊かにするための重要な行為として位置づけています。
本書を薦めたい読者層
働きながら趣味を楽しむ時間が持てない人
本書は、仕事と趣味の両立を目指すすべての人に向けた実践的なアドバイスを提供します。読書を習慣化したいと考える人
忙しい日々の中で読書をどう再開するか悩んでいる人に最適です。現代社会の働き方に疑問を持つ人
労働と趣味の関係を歴史的に探ることで、現代の働き方を見直すきっかけとなります。労働や読書の歴史を概要を掴みたい人 読書史や自己啓発書の背景に関心がある人にとって、学びの多い一冊です。
「なぜ働いていると本が読めなくなるのか」は、働く読書家が直面する課題に鋭く切り込み、読書の価値を再定義する一冊です。「全身全霊から半身へ」という視点を取り入れた働き方改革の一助として、ぜひ手に取ってほしい本です。
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