リメイク版から先に見るとオリジナル版の巧みさが光る。映画「一秒先の彼女」を見る。(※ネタバレあり)
オリジナル版は、2020年の台湾映画である。2021年、日本での公開を見逃したので、2023年公開のリメイク版から見ることに。
1.リメイク版を先に見る
リメイク版であると知っている。
オリジナル版とは男女の役が逆転してることも。
監督が山下敦弘、脚本がクドカン。
これはまずい。
岡田将生と清原果耶の役が逆で、
オリジナルと同じだったら、
ストーカーまがいの映画になるところだ。
これは反対が正解。
ではなぜオリジナル版は成立する?
2.ストーリー(リメイク版に基く)
行動が他の人よりも常にワンテンポ早い男性がいる。
徒競走のスタートも、歌も、ダンスも、笑いも。
写真を撮ると必ず目を閉じる。
いっぽう、ワンテンポ遅い女性がいる。
ワンテンポが積もり積もって、1日分に達する。
そのとき、世界は動きを止める。
動けるのはワンテンポ遅い女性とほか数名のみ。
ワンテンポ早い男性は、さらに1日分長く動きを止める。
先取りした時間、出遅れた時間、
帳尻を合わせるように、
男性の時間は止まり、
女性は停止した世界を見る。
時間の止まった男性を女性が連れまわす。
停止から解けたとき、男性にとり大切な1日が消えている。
謎解きの過程で忘れていた過去がよみがえる。
これが映画の基本的なストーリーである。
時間が止まるというアイデアが実に荒唐無稽だ。
図に示すとfig.1のようになる。
右手が”Real”現実であり、
左手が”Imaginary”荒唐無稽、フィクショナルな世界である。
いきなり”Imaginary”荒唐無稽が提示されても受け入れられない。
”Real”から出発し、現実の基盤を伸ばして近づける。
”Imaginary”荒唐無稽の基盤と地続きにする。
図にするとfig.2である。
そのためには、3つのことが重要だ。
3.虚構を現実のように見せる3つの秘訣
1. 細部にこだわる
具体的な現実に基づいて、シーンを緻密に構築する。
郵便局の仕事、同僚、家族の描写を詳細に。
神は細部に宿るのである。
2. 伏線をちりばめる
伏線を用意する。
男性目線の前半のストーリーで伏線をばらまく。
女性目線の後半でしっかり回収していく。
二人の間にあった関係がだんだん判ってくる。
3. 小ネタを振りまく
オリジナルでは、フライ返し、緑豆豆花など。
リメイクではパピコ、みょうが、洛中の範囲。
便座の上げ下げなど。
”Real”の基盤から出発し、細部のディテールを積み上げ、伏線を回収し、
小ネタもまき散らしながら、左の”Imaginary”の基盤と地続きにする。
オリジナル版もリメイク版もこの構図は全く一緒である。
4.オリジナル版の巧みさ
私書箱とそこに投函される手紙が
ストーリ展開上、重要な役割を担っている。
主人公は思い出し、鍵をさがす。
リメイク版では、実家に戻り、
子供が飲み込んだ等の小ネタを挟んで見つけ出す。
オリジナル版では、家に住み着くヤモリが、擬人化して登場する。
主人公がこれまでなくしたものの管理係である。
鍵の存在を示唆する。
現実と白昼夢が入れ替わる。
構図が一緒といったが、ここが違うところだ、
オリジナル版は”Real”に見せかけて、
一瞬のうちに”Imaginary”に反転する。
オリジナル版は、”Real”の基盤が”Imaginary”の側に
大きくウィングが伸びているのである。
構図は実際にはfig.3である。
だから到達点である”Imaginary”の世界の構築には、
オリジナル版の方に分がある。
だって”Real”から”Imaginary”までの基盤の距離が近いもの。
そう考えるとオリジナル版がストーカー映画になることを
ぎりぎり回避するのは、”Imaginary”の世界の構築に
成功しているからこそだろう。
山下とクドカンが同じことをしなかったのは、
それを潔しとしなかったからだろうか。
矜持があったのか。
男女入れ替えで解決を図った。
5.ラスト
忘れてはいけないが、
映画のテーマは、失ったものである。
1日、恋、父親、記憶、...……。
失った記憶がよみがえるとき、
全ての謎は解け、感動が広がる。