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「忠実度」を考えてみる

 皆様お疲れ様です。Collaborate labという名前を付けて、自閉症支援にエビデンスのある支援の導入の普及を目指し、学びを情報発信をしています。最新のトピックや自身の学びを深めて現場に落とし込んでいくことが私の目標ですし、学びをシェアしていくことで皆様の何かのきっかけになればと考えています。大変恐縮ではございますが皆さんからもぜひ色々なご助言やご指導を受けながら洗練させていきたいと思っておりますのでどうぞコメント、質問、シェアやいいねなど様々なサポートをよろしくお願いいたします。皆様からのリアクションが励みとなります。

 今回はプログラムの忠実度を高めることで成果を上げていくための視点です。日ごろの支援をしていく中でどのように組織をマネジメントしていくか、どのように現場の人材育成をしていくかを具体的に考えるための一つのヒントになれば幸いです。今回は5688文字でした。


1.なぜその視点になったの?

 なぜこんなに忠実度というものに着眼してきたのか。それは私が研究をしていくにあたって、研究と現場実践を埋めるためにどうするかを検討した論文をいくつか見てきましたが多くの研究が、プログラムの忠実度とその効果との間に強い関連があることを示していたからです。忠実度とは、開発されたプログラムや介入が本来の設計通りに実行されているかどうかを指します。このあたりの説明は、以下の記事にも記載していますのでまた見てみてください。

 例えば、研究の中では特定の介入プログラムが厳密に実施された場合、そうでない場合に比べて顕著に効果が高いことが一貫して示されていました。一方で現場の中で困難事例が出ていたり、期待された効果が得られなかったりする場合には、プログラムのポイントが忠実に実践できていなかった、機能させることができなかった事例が多く見られています。そもそも何かしらのプログラムを実行できるような環境ではない場合もあるかもしれません。私自身も様々な現場での実践を見させて頂き、一緒に検討する際には学習スタイルや構造化などのポイントを抑えられているのかを確認するようにしていますがそういったことが多いように感じます。
 近年では随分と認知されてきたコンサルタントやスーパーバイザーといった存在がその整理をしてくださっているように思います。多くの事例を話し合っていく中で、言葉としては忠実度といったキーワードは出ていませんが、プログラムの重要な要素に沿って実施することの重要性が認識されるようになってきたように感じました。また、事例報告などで挙げられている成功を収めた組織の事例も、忠実度の重要性を理解する助けとなっているのではないでしょうか。こちらの件もプログラムを実施したという認識かもしれないですが、他の組織にとって模範となり、プログラムの重要な要素を機能させることが利用者支援に有効だと感じる理解につながるのではないかと思います。
 また、公共政策や専門機関のガイドラインも、プログラムの忠実度を重視する方向にシフトしてきていると思います。海外であれば米国疾病予防管理センター(CDC)のガイドライン、英国国立医療技術評価機構(NICE)のガイドラインなどがあるでしょうか。日本においても厚生労働省や国立精神・神経医療研究センター(NCNP)のガイドライン、文部科学省は特別支援教育のガイドラインなど多くの政府機関や非営利団体が、プログラムの効果を最大化するために、具体的なガイドラインを提供しています。これにより、ガイドラインに沿った実施することが広く認識されるようになっています。これは忠実度を重要視している考え方に直結するのではないでしょうか。
 おそらく、当事者からのフィードバックもまた、忠実度の重要性を示す一因です。当事者が支援の一貫性や質の高さを評価し、高い満足度を示す報告が多く上がっています。これは、各事業所の支援や方針に沿って現場が忠実に支援を実施されていることによるものだと考えられます。
 以上のことから「忠実度」というキーワードとしては出てこないものの、ガイドラインや標準化された手法などが整理され、それに沿った介入や支援が取り組まれていく視点になっていると考えられます。

2.与える影響はどんなものか?

 プログラムの忠実度が重要である理由は多岐にわたります。その前に忠実度を意識すること、高めることはどのような影響を与える可能性があるのでしょうか?もちろん最終的には利用者への効果、組織のマネジメントなどサービスを提供する側と利用者の双方にとって多くの成果と利益を上げる影響を与えると考えています。私なりにどういったところに影響を与えるのか、いくつかの観点から整理してみました。

①プログラム効果の保証
 
プログラムが設計された通りに実行されることで、その効果が確実に発揮されます。研究や臨床試験に基づいて開発されたプログラムは、特定の手順や方法に従うことで効果が証明されています。そのため、忠実に実行されることにより、利用者が最大の利益を得ることができます。逆に、忠実度が低下すると、プログラムの効果が減少する可能性が高くなり、最悪の場合、期待される成果が得られないこともあります。つまり、忠実度が高いことはプログラムがしっかりと機能していることとも言えるため、サービスの質と効果を保証する上で非常に重要であると考えられます。

サービスの質の一貫性
 
社会福祉のサービスは、サービスの内容が物理的な製品とは異なり、形がなく、提供された瞬間に消費されます。したがって、サービスの品質は提供する人や状況によって変わりやすく、一貫した品質を維持することが困難です。ここにプログラムの忠実度の視点から考えてみると、導入したプログラムの忠実度が高ければ、このような変動性を最小限に抑え、サービスの質を一定の水準で保つことができると考えられます。
 異なる支援者が異なる方法でプログラムや支援を実行すると、結果がばらつき、利用者が不公平な扱いを受ける可能性があります。統一された手法でプログラムが実行されることにより、利用者がどの支援者からサービスを受けても同等の効果を期待できるようになり、サービスの質を確保することにもつながると考えられます。

様々な評価と改善の基盤
 
プログラムの忠実度を導入するということは、プログラムがどのように計画され、実行されているかを正確に評価するための基準を作ることを意味します。この基準があることで、サービスが提供される各段階での成果をしっかりと測定し、目標がどれだけ達成されているかを数値で把握することができます。もしプログラムが計画どおりに進んでいなければ、その効果を正しく測定することは難しくなります。
 忠実度が高い場合は、サービスの効果を正確に評価することができ、必要に応じて改善するための対策や対応を取ることが可能です。プログラムの効果を正しく評価するためには、忠実度が保たれている必要があります。もし忠実度が低い場合は、プログラムの評価結果が正確でなくなってしまう恐れがあり、その結果、改善策を効果的に実施することが困難になります。
 したがって、プログラムの評価と改善を繰り返し行い、サービスの品質を持続的に向上させるためには、忠実度を維持することが非常に重要です。忠実度を高めることで、サービス提供者はプログラムの目的に沿った高品質なサービスを提供し続けることができ、利用者にとっても満足度の高い結果を得ることができます。

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