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いでよ、分身
「ママがもう一人いたらいいのに」
次女が言った。
我が家の双子は二卵性なので、長女と次女の性格はずいぶん違う。真面目で自立心旺盛な長女と、甘えん坊でちゃっかりさんの次女。正反対と言ってもいい二人だけれど、喧嘩をしつつもなんだかんだうまくやっている。
そう、7歳になってなお甘えん坊な次女は、ママに甘え足りないらしいのだ。
「ママがもう一人いたらさあー、もっといっぱいくっつけるのにぃー。ぎゅーできるのにぃー」
身をくねらせながらわたしの体にまとわりつく。甘えん坊なだけでなく、甘え方も上手である。甘えられた相手はつい「もー、しゃーないなあー」と言ってしまう。
対して、長女は甘え下手なように思う。うまいこと甘えている次女をちらりと見ては、なにか言いたげな様子でいることがある。「べ、べつにうらやましくなんかないもんねっ!」とでも言いそうな眼差しがわたしの心をつかむ。
きっと、長女は思いきり甘えられていないはずだ。ちょっとわがままを言ってやろうと思っても、いつも次女が先んじてしまう感じがする。
先日の夜、長女がなかなか寝つけず、お布団の上でごろんごろんと転がり続けていた。あっという間に21時になったところで、わたしは彼女に提案した。
「ねえ、起きてさ、ママとちょっとおしゃべりする?」
「うん!」
長女は跳びはねるような返事をよこした。文字の一つひとつがぴょん、ぴょんと弾けた。
その後、ダイニングでお茶を飲みながら二人でしばらく話した。学校のこと、通学路でいつも会うおばあちゃんのこと、大好きなピアノのこと……。長女の口からはたくさんの話題が飛び出した。頬はピンク色でつやつや、笑顔も輝く。
そうして話し疲れた長女はお布団に戻るとすーっと眠った。
わたしが自分で言うのもなんだけれど、双子の娘たちそれぞれにママをひとりじめしたいときがあるのだろう。わたしも子どもの頃は、母をひとりじめしたいとずっと思っていた。
しかし、年子の妹がいたから、願いはなかなか叶わなかった。そのぶん、めいっぱい甘えられたときの幸せな気持ちは大人になってもうっすらと憶えている。
わたしも母親となった今、娘たちをできるだけ甘えさせてあげたいと思う。甘えてくれるのも今のうちだけだろうから。
子どもの頃に甘えた記憶は宝物になるかもしれない。つらいとき、生きるよすがになることだってあるかもしれない。
娘たちのために、わたしの分身がほしいと願う最近である。