彼と彼女のカレー可能情報
「夫くん、これも・・・入れちゃうよ。ふふ」
「や、やめろぉおお!!早まるなあああ!!」
・・・
私の得意料理のひとつ、カレー。
もちろん、市販のルウを使って作るカレーだ。
ここ日本はカレー先進国。
どのメーカーも鎬を削り、低価格・高品質の
ルウを競って市場に出してくれる。最高かよ。
おかげで私はパッケージの説明通りの手順で
いつでも高品質のカレーを作ることができる。
ウチで絶賛するルウは「ジャワカレー(辛口)」
味の深みと奥行きが素晴らしい。
あと、ちゃんと辛い。これポイントね!
ウチでは夫婦揃ってジャワカレー推しだが
他のメーカーのルウも軒並み試すスタイル。
というわけで暇さえあれば買って試す日々。
スーパーに並ぶ有名どころはあらかた制覇。
今回の話はプライベートブランドのルウだ。
この安いヤツ、美味しいのかよ?という話。
というわけで某プライベートブランドの
カレールウを買って作って食べてみたのだ。
(念の為言っておくがトップ〇リュではない。
本当に知名度が低い、ローカル商品のルウだ)
結論から言ってしまおう。
二度とこんなもん買うか!!
である。
美味しいか?と言われれば、うーん…
マズイのか?と言われれば、マズくはない…
うん、普通に食べられる。
しかし鍋で煮込んで作る料理としては
絶望的にイマイチ感がぬぐえないのである。
かける手間に対してリターンが見合わない。
なんというか、味がペラッペラ。
深みが無い、奥行きを感じられない。
まさしく「やっすいカレー」って感じだ。
口に含む際の香りは貧弱だし
咀嚼中に鼻を抜ける食欲増進香も感じられない。
食べ終えた後の“げふう”という満足感もない。
なんで私はこんなもので
腹を満たしてしまったのだ…!
という後悔の念ばかりが渦巻いてくるのだ。
ち、これだから知名度の低い商品は恐ろしい。
まったく、もう金輪際このルウは買わないぞ!
ね?嫁ちゃんもそう思うよね!
「ごめん夫くん。これ安かったから
もう一つ買っちゃったんだよね。ぐふふ」
oh!家計に優しい!妻の鑑!ナイスワイフ!
・・・
美味しくないカレーを食べてから二週間経過。
そろそろカレー欲が高まってきたので
私がまたカレーを作る運びとなった。
もちろん、例の美味しくないルウを使ってだ。
「まあまあ、ここはわたしに任せてよ」
自分で自分の胸をポンと叩いて嫁ちゃん登場。
なんだこの頼もしさは…惚れてまうやろ。
「夫くん、切った野菜ちょうだい。
わたしが美味しく炒めてあげる」
そう言って嫁ちゃんがフライパンを持ち
スライスしたにんにくを油で炒めだした。
よし、と続けて野菜も手際よく炒め出す。
キッチンに広がる美味しい香り。
「夫くん、元の味に深みが無かったらねぇ
こっちから深みを足してやればいいんだよ」
そういって冷蔵庫から取り出したるは
ブルドック中濃ソース。ほう、そう来たか…。
炒めた野菜と豚肉に大匙一のソースをかける。
なんだ、これもしかして美味しく化けるのか?
私の期待がこれでもかと膨らみ始める。
やっぱりウチの嫁ちゃんは天才かもしれない。
「まだまだだよ、夫くん」
そういって冷蔵庫から取り出したのは…
トマトケチャップ。
えっ?
「夫くん、これも・・・入れちゃうよ。ふふ」
や、やめろぉおお!!早まるなあああ!!
待て!私の話を聞くんだ!
にんにく炒めに、中濃ソースまではいいだろう。
おまけにマギーブイヨンも入っているし
多分味付けは良い方向に行っていると思う。
しかしトマトケチャップはちょっとやりすぎ!
隠し味がぶつかりすぎてダブルノックアウト!
まとまりの無い味になっちゃうんじ
「はい投入ー」
遅かったッ。
この嫁ちゃんは料理の事になるとまるで
ブレーキが壊れたダンプカー!暴走列車!
思い立ったら即実行!そういう女だった!
「まあまあ、きっと美味しいから大丈夫だよ。
どれどれ味見してみるよ・・・うん、いるね。
遠くのほうにケチャップがいるね。よしよし」
なにがよしよしなのか。
もうカレーではなくハヤシライスではないか。
まあ、過ぎたことをいくら言っても仕方がない。
ここは腹を決めよう。コトコト煮込むのだ。
それが私のような料理凡夫に残された、道。
・・・
う、美味い・・・!?
一口食べてしばらく咀嚼して驚いた。
味に深みが、奥行きが加わっている!
あれ、これちょっと本当に美味しくなってる。
「うん、美味しくなってるね。よかった」
あのペラペラ味のカレーを、たかだか
市販品のにんにくとソースとケチャップで
こうまで美味しくできるものなのか?
いやできない!(私には)
やっぱりこの女、とんでもねー女なのでは…
「まあ、さすがにジャワカレーには負けるね」
そう言っていつの間にか作ったサラダと共に
カレーをほおばりご満悦の嫁ちゃん。
面と向かって言えなかったけどね、嫁ちゃん。
私、このカレー、結構好きかもって思ったよ。