
町角の菩薩「京都のお地蔵さん」
大阪、東京より、街角にはお地蔵さんがいっぱい
京都の街を歩くと、お地蔵様(地蔵菩薩)をよく見かける。大阪、東京に長く住み、好んで散策したが、京都ほど多くお地蔵様を見た記憶がない。京都の街には、地蔵信仰が深く根付いている。祠に納められ、きれいにお掃除で清めて、花をお供えしている地区ごとの地蔵像。あわただしい通勤時にも、手を合わせる人たちをしばしば見かける。こうした光景から、地蔵信仰と京都人の深いつながりが感じられる。そういう心が受け継がれてきた京都には、3000体以上のお地蔵さんがおられるらしいが、これはおそらく日本一ではないだろうか。
奈良時代に伝えられたクシティガルバが、地蔵菩薩になっていく
地蔵菩薩が日本に伝わったのは奈良時代のこと。地蔵という名前はサンスクリット語の「クシティガルバ」に由来している。大地や子宮、胎内を意味するから〈大地に包まれる〉という意味から「地蔵」になった。お地蔵さんは生きとし生けるもの、特に弱者を救うと信仰されている。昔から、子どもが無事に育つようにとか、幼くして亡くなった子どもが、賽の河原で鬼にいじめられず、浄土に行けるようにと願いが込められてきた。
江戸時代、京都ではお地蔵さんが大ブレイク
一方で、地獄に堕ちた人を救う存在として、平安時代の末期から民間で信仰を集めるようになったのは、地蔵は閻魔大王と同じという考えもあったからともいわれている。やがて中世になると、足利尊氏をはじめとする武士たちにも信仰され、江戸初期には京都でお地蔵さんが大ブレイクしたという。
江戸初期は大坂夏の陣を経て、徳川幕府がはじまる時期。豊臣家の支配が強かった西国では、新しい時代の到来に大きな動揺があったに違いない。この時期京都では、大坂の陣で落命した人たちの亡霊の話しが噂されたり、子供を誘拐して大坂に売られる事件が起こったりと、社会的に不安定な時期だったと伝えられている。
石仏は地蔵のように神々しく、人々の心の拠り所になった
そんな中、京都では二条城や民家の建設、井戸堀りなどの作業時に、地中から大量の石仏が次々と出土した。地中から出てきた石仏とは、まさにクシティガルバ=地蔵である。京都の住民の「子どもたちや生活をを守りたい」という願いと深く結びついていく。この時出土した石仏は、中世の墓標といわれている。そもそも京都は、鴨川の氾濫や治水工事で土砂が積もった土地だった。そのため平安時代の地面は、今よりも2メートルも低かった。とりわけ鴨川は葬送地で、石仏や墓標が出土しても不思議ではない場所である。
不安の中に暮らしていた民衆にとっては、突然あらわれた大量の石仏や墓標は、お地蔵さんに見えたのかもしれない。突如現われた大量の地蔵に、人々は手を合わせ、心の拠り所を見出していったのだ。

出典:高津商会RICA/Yahoo Japan!ニュース

出典:高津商会RICA/Yahoo Japan!ニュース
人と人を繋いできた地蔵菩薩、京のお地蔵さん信仰
こうして、お地蔵様は京都の人々の心を深く捉え、地域の守り神として崇敬を集める存在となった。あの印象深い大量出土から四百年以上の時を経た現在も、各町には必ず一基のお地蔵様が祀られ、住民は交替でその祠を清掃し、花を供えるなど、手厚く奉仕し続けている。地蔵信仰は、今なお京都の町並みに息づき、悠久の時を超えて守られ続けている。
お化粧や新しい着つけ、祭壇にお飾りして「地蔵盆」を迎える
お地蔵さんと子供たち、町の人々の距離がぐっと縮まるのが、毎年8月に行われる地蔵盆。最近は8月24日前後の土日に各町で行われている。普段は祠や寺に祀られているお地蔵さんがこの時期、表に出されて洗われ、きれいに化粧されるか、新しいよだれかけを着けられて祭壇に飾られる。地域の大人や子どもたちは次々と訪れ、日々見守ってくれるお地蔵さんに感謝し、これからの平安を祈るのである。祭りでは僧侶の読経や珠数まわし、福引きやスイカ割りといった楽しいイベントもあり、町全体が賑やかに盛り上がる。
お地蔵さんのお化粧
お地蔵さんのお化粧
youtube登録:京都の文化遺産
地蔵盆の「化粧地蔵」と「お供え」
お地蔵さまの前掛けやお帽子は、通販で購入できることを発見。お寺の御用達ショップは「寺の友社」、お社の御用達ショップ は「杜の友社」である。寺や神社で必要なものがそろっている。
京都に伝わる地蔵信仰 浄土宗総本山「知恩院」
京都をつなぐ無形文化遺産「京の地蔵盆」
まんが日本むかし話 笠地蔵
まんが日本昔ばなし 笠地蔵
Youtube登録:lovelyyozu.koyuki
京都を歩いていると、町のいたるところにお地蔵様が祀られている。子供の頃は町内のお地蔵様を、母や近所の人たちが交代でお世話していて、夏休みにはお手伝いした記憶がある。長く京都を離れて、戻った時に一番驚いたのは、あの風習がいまも続いていることだ。京都の人たちが、お地蔵様をあちこちにお祀りしているおかげで、京都は災害もめったになく、平和に暮らしていけている。お地蔵様のご利益が数百年も続いているという現象は、よく囁かれる京都の都市伝説、〈魔都、京都〉というのも、あながち噂だけではないようにも思える。
いいなと思ったら応援しよう!
