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卒業式にもらった手紙から、子どもとの関係性のつくりかたを考えてみた
「この先生おもしろいかも」
ある年の卒業式。担任した子どもにもらった手紙に書いてあった言葉。
この言葉から、教師のあるべき姿が分かったような気がしたから書き記しておきたい。
その手紙をくれた子は、5年生でクラス替えがあった。私はそのタイミングで赴任してきた。
「また新しい先生か…」
「仲のいい友達もいないし、不安だなあ」
そんな不安を知らない私は、新天地での始まりに心躍らせていた。
学級開きでは、スライドを見せながら、おもしろおかしく自己紹介した。クイズ形式にして興味をもってもらいたかった。
私は子どもたちとの出会いの日に、自分の好きなものや嫌いなもの、得意なことや苦手なこと等、できる限り包み隠さず話すようにしている。
教師だって完璧なんかじゃないと知ってほしい。一年間を、ありのままの自分でいるためには欠かせない自己開示だ。
子どもたちも、教師の“余白”は結構好きで、「先生なのに○○」といったことは親しみやすさを感じるようだ。
好きなものや嫌いなものは、子どもとのコミュニケーションを促進する。子どもたちはあらゆる場面で私の好きなものを話題にあげる。
好きなものは、私の代名詞として働く効果があるので、結構こだわって決めている。
今のところは…
バナナ推し
で統一している。好きな食べ物はバナナ、飲み物はバナナジュース、色は黄色、動物はゴリラといった感じに。
バナナ推しを公言してから、毎日バナナスムージーやバナナミルクを飲むほどバナナ好きになった。立場が人を変えるとはこういうことかもしれない。
バナナの良いところは、誰もが知っている上に、なぜだかほんのちょっとだけ面白い印象が残る。
ゴリラを連想するのかもしれないが、なんかバナナ好きは面白い対象として映るみたいだ。
子どもウケする好きな食べ物がない人は、ぜひバナナ好きキャラになってみるのをおすすめする。
一方、嫌いなものは最初に伝えておくと、事あるごとに取り上げてイジってくる子が現れる。これが結構面白い。
給食に出ようものなら、聞いてもないのに、満面の笑みで「先生、今日トマトだよ!!!」と言いにくる。なんとも豊かな時間だなと思う。
ただ、この嫌いな食べ物が給食に出たときがチャンスとなる。
教師が嫌いな食べ物も頑張って食べている姿を見せることができる。つべこべ言わずに姿で示せる。
といった感じで、自分の好きなものや嫌いなものは、子どもたちとのコミュニケーションに役立つので、学級開きの際に小ボケを挟みながらプレゼンしている。
あと、得意なことや苦手なことも積極的に開示していく。だって、人はみな得意なことと苦手なことを抱えて生きているから。
私は早寝早起きが得意だといつも話す。21時に寝て、4時に起きていると伝えると、大体みんな驚く。
そして、そんなに早く起きて何をしているの?と聞いてくる。
もちろん、
勉強
だと答える。これがまた刺激的でいい。
「超早起きして勉強している先生」という印象は、意外と子どもたちに刺さるようで、一生懸命さや勉強熱心さが残る。
毎年、子どもたちに先生アンケートを書いてもらうと、この2つは評価が高い。
子どもたちに学びを要求するのであれば、教師がそこにいる誰よりも学んでいるべきだと自分に課している。
これは本当にただのこだわりだ。
ただ個人的には、子どもたちに学び熱を伝播させる上で、私の勉強熱心さは大いに生きていると感じる。
もし、学び続ける教師を目指すのであれば、「超早起きして勉強しているキャラ」はおすすめだ。
最後に、苦手なことで紹介するのは、「忘れ物が多い」こと。
これだけは本当に申し訳ないくらいに忘れてしまう。一年間を通して、抜け漏れなくできる自信は1mmもない。
もちろん、「これは忘れたら終わり」というものは、あらゆる手段を駆使して忘れないようにしている。
Apple Watchに通知してもらって、何度もリマインドしている。
でもやっぱり、小さなことに関してはよく忘れるので、最初に伝えておく。
「また先生忘れてるよ」って、助けてくれるしっかり者の子が現れるので、毎年助かっている。本当にありがたい。
それぞれ苦手なことはあるけれど、こうして助け合い補い合って生きていくんだね、なんてことを言って一件落着としている。
さて、随分と話が長くなったので冒頭の手紙の言葉に戻す。
「この先生おもしろいかも」
その子が私の自己紹介を聞いて思ったという。
仲のいい友達と離れてしまい、不安を感じていた新年度初日に、私はその子の心を少し動かすことができた。
手紙をもらった時は、純粋に「嬉しい」くらいにしか思っていなかった。
でも、よく考えてみると、教師のあるべき姿を教えてくれているような気がしてきた。
おもしろいかもって、
つまり私に“興味”をもったということ。
これが何より大切。
最初の第一印象で、興味をもってもらうことができれば、その先も興味をもち続けてもらえる。最初が肝心。
最初に興味をもたなかったら、その先ずっと興味をもてない存在として捉えられてしまう。バイアスってこわい。
教師に興味がないだけならまだいいが、学校に行きたくない感情が生まれることだって大いにある。
だから侮ってはいけない。
「この先生おもしろいかも」と興味をもったことで、不安がかき消され、学校生活を楽しく過ごせるようになる。
そう考えると、教師に対する興味は、些細なことかもしれはいけど、実は計り知れない力がある。
興味をもち続けてもらうためには、絶えず学び続け、自らをアップデートしていかなければならない。
好奇心や探究心をもって生きていると、その生き生きとした姿が伝播する。しっかりと届く。そう思っている。
そして、教師が生き生きと学び続けていると、
興味はいつしか“憧れ”に変わる。
憧れは人を動かす凄まじい原動力になる。
教師がありのまま輝き、気付けば子どもたちも引っ張られるように輝き出す。学校をそんな場所にしたい。
だから私は、その子にもらった手紙を何度も読み返して立ち返っている。
次に出会う子どもたちにも「この先生おもしろいかも」と思ってもらえる人になるために。