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リルケ「フィレンツェだより」森有正訳〜BWV541のオルガンの響きとともに
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Rainer Maria Rilke:Tagebücher aus der Frühzeit
「愛する人よ、わたくしが巡礼に出かけて行きたいのは、あなたの魂の中だけだ。深く深く、あなたの魂が寺院になる所まで。そこで、わたくしは、あなたの荘厳さの中に、わたくしの郷愁を聖体盒 のように高く挙げたいのだ。これがわたくしの望みである」。
「フィレンツェだより」は、ドイツの詩人リルケが、1898年4月15日から7月6日にかけて恋人ルーザロメにあてた書簡体の日記。イタリアのフィレンツェで書き始められ、ヴィアレッジオを経て、ゾボットで完成された。本来の日記の意味ではなく、芸術上の考察を混えた、いくつかの部分からなる長大な旅便りで、恋人シュタイン夫人にイタリア旅行を書き送ったゲーテ「イタリア紀行」に倣っています。
ルーザロメへの募る恋心を綴っているだけではない。イタリアで芸術作品に触れ、フラ・バルトロメオの聖母子はラファエロの聖母子像より素晴らしいと感じている事、ジョルジョーネの「合奏」が力強く豊かな印象をもたらしたこと、フラ・アンジェリコとサンドロ・ボッティチェリとの比較など、芸術についてのリルケの考察が興味深いです。
訳者は、「マルテの手記」などリルケ作品を愛読した哲学者森有正。「リルケの名は私の中の隠れた部分にレゾナンス(共鳴)を惹き起こし、自分が本当に望んでいるものが何であるか、また自分がどんなに遠くそれから離れているかを同時に、感得させてくれる」そうです。本書はフランス語翻訳からの重訳となり、リルケを「わたくし」と訳すなど丁寧で清冽な訳文となっています。
読書の音楽は、バッハの「プレリュードとフーガ ト長調」(BWV541)。自身でもオルガンを弾く森有正が、翻訳「フィレンツェだより」の刊行前年に、カテドラルで聞いたオルガン曲。「人間が自己に克って築き上げた凡ゆる精神的なももろもろの価値を担っている美しさだった」と振り返っています。