千夜千首#9/目覚めたら息真っ白で、これはもう、ほんかくてきよ、ほんかくてき:穂村弘さん
こんばんは。今日もお疲れさまでした! 毎夜19時に、あなたの心に響きそうな一首を選びじっくり解説していく「千夜千首 Journey Through a Thousand Tanka」。第9夜も、穂村弘さんの作品を味わっていきます。
今回は季節を味わうかわいらしい短歌で、
一日を締めくくっていきますね。
お届けするのは、毎日短歌を読み、『心のお守り』になるような言葉を探してはnoteで紹介しているつくだです。書籍の編集や文を書いています。
では今回も穂村弘さんの作品を、自選ベスト版歌集『ラインマーカーズ』からご紹介していきましょう。
目覚めたら息真っ白で、
これはもう、ほんかくてきよ、ほんかくてき
この歌、もともとは『手紙魔まみ、夏の引っ越し(うさぎ連れ)』に収録されている歌です。手紙魔のまみという少女が、穂村さんに大量に送ってきた手紙。穂村さんは、その手紙に着想を得て短歌を詠んでいるという設定です。
短歌を詠むことは、自分を詠むことでもあります。しかし、ときにはこの歌のように女性の視点から歌を詠んでみたり、あるいは我が子の視点から自分を振り返って詠む歌もあります。
この歌はまみが、冬の寒さの到来に驚いて喜ぶ歌です。「手紙魔まみ」という別の人格が存在しなければ「目覚めたら息真っ白で、これはもう、ほんかくてきよ、と彼女喜び」なんて客観描写になってしまいます。
それでは、まるでまみが私たちと一緒にいるような一体感は出ません。まさに『まみ』という存在があったからこそ、穂村さんはこの歌を詠むことができたと言えるでしょう。
ではいつものように技法を読み解いていきますね。
「息真っ白で」という比喩により、まみは冬がやってきたことに気づきます。ここで読者はまみと一緒に冬の寒さを体感することになります。
そして、「ほんかくてきよ、ほんかくてき」には3つの仕掛けが組み込まれています。1つめは、口語的表現により歌に親しみやすさを出しています。そして、ひらがなの「ほんかくてき」は、まみの少女らしさを出すための工夫といえるでしょう。
最後に冬の寒さを伝えるために「リフレイン(反復法)」という技法が使われています。「ほんかくてきよ、ほんかくてき」と繰り返すことで、冬の到来に驚くまみの心情を強調しています。
しかも、本来の反復法であるならば「ほんかくてきよ、ほんかくてきよ」と同じ言葉をつづけるのが普通です。しかし穂村さんは結句を「ほんかくてき」として、定型からはずれ、字足らずにしています。これは反復法と体言止めと字足らずの合わせ技です。
反復法で強調した「冬の寒さ」をさらに「ほんかくてき」と体言止めにすることによって強調しています。さらに体言止めと字足らずは、リズム感を高めると同時に、「ほんかくてきって、何のこと?」と読者に想像する余地を与えています。その結果余韻が生まれ、読者はまみの心情についてさまざまに想像する楽しみをえられるのです。
短歌は31文字57577が定型ですが、穂村さんは「あえて定型を崩すのもあり」と、次のように述べています。
つまり、定型があることを意識しつつ、ここはというところがあればあえて崩すということだと思います。短歌の言葉は、どんなシンプルな言葉であれ、そこにある理由がある。だからこそそこに感動が生まれるのですね。
今日もまた、学びにあふれ実に味わい深い歌に出会いました。感謝!
穂村弘さんのプロフィール
穂村弘さんは、1962年、札幌生まれの歌人です。1990年、歌集『シンジケート』でデビュー。そして、その後、評論、エッセイ、絵本、翻訳などさまざまな分野で活躍されています。『手紙屋まみ、夏の引っ越し(ウサギ連れ)』『世界音痴』ほか、著書多数。『短歌の友人』で伊藤整文学賞、『鳥肌が』で講談社エッセイ賞、『水中翼船炎上中』で、若山牧水賞を受賞する。
穂村さんの他の作品も読んでみたい方は、ぜひこちらをご覧ください。
穂村さんの作品の魅力に迫るにはこちらの本もおすすめです。
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かの大編集者・松岡正剛さんの人気連載「千夜千冊」のごとく、毎夜にわたり、おすすめの現代短歌を一首ご紹介していく連載企画「千夜千首」、お楽しみいただけたでしょうか?
それぞれの歌についてわたしなりに解説していますが、その解釈にかかわらずご自由に解釈して楽しんでいただけたら幸いです。もしよければ、その感想をコメントにお寄せいただけたらとても嬉しいです。
明日も穗村弘さんの、心に響く1首をお届けしていきます。
どうぞお楽しみに!
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