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高齢な親の介護日記⑪

2024年6月14日 金曜日 晴れ

父が傘を紛失していた。
いつもの玄関に、いつも杖と一緒に立てかけている茶色のチェックの傘が忽然と消えていた。
この傘はもう処分してしまった実家にあった傘で、母がまだ生きていた頃からあった傘だ。

「お父さん、傘、どこかに忘れてきた?」
と聞いても、よく覚えていない。
「じゃあ今日は、いつも行く薬局とコンビニとスーパーに傘の忘れ物がないか探しに行こうか」

暑い中、まず最初に父と一緒にコンビニにきた。
今日は晴れているからか、傘立ては表にでていなかったので店員さんに理由を話して裏の倉庫まで確認してもらった。
待っている間、父は
「何をしにコンビニに来たんだ?」
と状況を理解していなかったので、
「お父さん、傘をどこかに忘れてきたでしょ。だから今、コンビニに忘れていないか確認しにきたよ」
と伝えると、まさかの返答が。
「なんで、おまえはおれが傘をなくしているのを知ってるんだ?」
驚いた顔で尋ねる父をみて、私も驚いたけれど、最初から順番に今日の出来事をできるだけ面白おかしく笑顔で伝えた。

コンビニには傘の忘れ物はなかったので次に薬局に行った。
薬局でも、父はなぜ薬局に来たかわからなくなりそうだから、「薬局に傘を忘れているかもしれないから薬局にきたんだよ」と呪文のように何度も唱えていると、父に「そこまでバカじゃないから」と諭された。

薬局にもなかったので、次に半ば諦めながらスーパーに向かう。
「お父さん、雨の日にスーパーきてたし、スーパーに忘れているかもよ」と3回くらい唱えながらスーパーに向かうと、スーパーの入り口にある傘立てに、見覚えのある茶色いチェックの傘を発見した。
「こんなところに忘れていたのか」
父は再会した傘を大切そうに手に取りながら、こう呟いた。
「もうそろそろ新しい傘を買ったほうが、日本経済をうまく回せたのに残念だな」

「新しい傘なんか買っちゃったら、どれが自分の傘なのかわからなくなっちゃうから」
私は心の中で呟いた。





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