スキスキ大江健三郎 〜大江健三郎オススメ小説ベスト10〜

1.推しはノーベル賞

突然ですがみなさんに「推し」はいますか? 僕にはいます! 推しが武道館に行ったら死ねる、とはよくいったものですが、僕の推しは僕が推すずっと以前から推されまくっていて、武道館どころか既にストックホルムに到着していました。なんとそこでノーベル賞(脳ベル賞じゃありません)をもらったんです! すごくないですか!? それなら今更僕が推すまでもないし、死んでもいいんじゃ…… いいえ、僕はまだ死ねません。なぜなら名声のわりに、彼の小説はあまり読まれていないからです。

2.スキスキ健三郎

お気づきかと思いますが、僕の推しは大江健三郎という小説家です。僕は大江さんの小説がめちゃくちゃに好きで、どのくらい好きかというと、世界で一番大江さんの小説のことをわかっているのが自分で、大江さんの小説はすべて自分のために書かれていると思っているくらいに好きです! みんなも大江健三郎さんの小説を読んで、僕みたいに気持ちの悪いファンになりましょう!

3.何から読めばいいの? → 初期短編を読まないで!

大江健三郎さんの作品はめちゃくちゃ多いです。
「興味あんねんけどどれから読んだらええんや… おっ、これ短いやつやな! いっちょ読んでみたろ」⇒「なんや、つまらんわ…… この作家はもうええかな」
めちゃくちゃ(何回言うの)もったいないですね! これはいけません。いけないパターンの典型です。僕ははじめて大江健三郎を読んでみたいと思った人に、絶対に初期作品は薦めません。なぜでしょう? ざっくりいうと、大江健三郎は、そのキャリアの途中から、まったく違う作家になったからです。そして僕の大好きスキスキな大江健三郎は、その違う作家になってからの大江健三郎だからです。

そこで世界で一番大江健三郎が好きで、大江健三郎に詳しい僕が、大江健三郎を初めて読んでみようかなと思ってくれているあなたに薦めるのは、
『キルプの軍団』
という作品です! ではさっそくクリックして注文してください。読み終わったら4に進みましょう!
リンクを貼っておきます。一応、参考までに!
ではまたお会いしましょう!


4.次何を読んだらいいの? 大江健三郎ナイス作品ランキング!

キルプの軍団、いかがでしたか…?
最高だったでしょう!? もうあなたは健三郎のことが好きになりかけているはずです。健三郎を欲しがりさんになったあなたに、大江健三郎小説ベスト10を発表します! (なお10では足りなかったので15になりました) ぶっちゃけ1位以外は同じくらい好きなので雑に全部2位でもいいんですが、盛り上げの都合上、一応順位をつけました。1位が100点だとすると、他は全部99点です。皆さんは、大江健三郎の小説がこんなに読める喜びに打ち震えてください。 rejoice!



15位 宙返り

1位作品の続編であり復帰作。 宗教団体の顛末を書かせたら健三郎の右に出るものは高橋和巳以外いませんね! 三人称視点もファンにとっては嬉しい驚きと仕掛けです。


14位 雨の木を聴く女たち

長編作品のイメージが強い大江健三郎ですが、ここから11位まではそのもう一つの柱である連作短編集が続きます。雨の木というイメージに触発されて、武満徹さんが美しい曲を書いてもいます。



13位 いかに木を殺すか

繰り返しになりますがこの辺の順位付けはめちゃ適当です! いまパラパラめくっていたんですが、読みたくなりすぎて記事を書けなくなるので歯を食いしばって閉じました!


12位 河馬に噛まれる

一見ユーモラスなタイトルとは裏腹に…… 河馬に噛まれることは致命傷です。



11位 僕が本当に若かった頃

中期大江健三郎の連作短編集の美しさが凝縮されています。このタイトルの美しさ!!! ああ、僕が本当に若かった頃、僕はひたすら布団に潜り込んで、大江さんの小説をむさぼり読んでいたのでした。あまりにも自分の青春と結びつきすぎていて、直視できない、そういう小説家が大江健三郎さんです。



10位 取り替え子

大江作品を読むコツは、彼の伝記的情報に惑わされないことです。大江健三郎は、僕らがなんとなく知っている彼の伝記的情報を利用して作品を書いています。なぜそんなことをするのでしょう? それは彼の言葉を借りれば「ウソに力を与える」ためです。「こんなことが本当にあり得るのじゃないか?」と読者が思った時、彼の小説の機能が果たされる、そういう形式で彼は禁欲的に作品を量産しました。だから彼はファンタジーをほとんど書かなかったし、語りも一人称に限定しつづけました。

……そういうことだ、おれは向こう側に移行する



9位 治療塔/治療塔惑星

最高の内容とダサすぎる装丁デザインのギャップにふるえてください! (単行本はかっこいい)

コノ地球ニ、人間トイウ意識ヲソナエタ生物ガ現ワレタノハ、アヤマリダッタナ。



8位 静かな生活

小説家の子どもたちは大江作品で重要な役割を果たしますが、これは娘が語り手です。静かな生活、新しい人よ眼ざめよ、キルプの軍団は、自分の中では三部作的位置づけです。

しかしこれもよくわからないまま、感じだけでいうけれど、私はそれで安心だとはいいたくない気がする。むしろ、なにくそ、なにくそ!と思う……



7位 人生の親戚

まり恵さん、まり恵さん、まり恵さん…!

ムーサン、この世界は恐いよ! 犬が吠えるしねえ! 睨んだり笑ったりする人もいるしねえ! 発作が起こるし!

いつ読んでも泣いてしまう作品。苦境にある人に読んでほしい作品です。




6位 新しい人よ眼ざめよ

大江作品は、作品ごとに導き手となる作家が指名されている場合があります。ここではウィリアム・ブレイクです。読後あなたはきっとブレイクが読みたくなることでしょう…
正直もっと順位が上でもいいと思うのですが、全作品が素晴らしすぎるので仕方ありません… 例によって、パラパラとめくっていたら泣けてきました… みんな、大江健三郎読もうぜ! 最高だぜ!

大丈夫ですよ、大丈夫ですよ! 夢だから、夢を見ているんですから! なんにも、ぜんぜん、恐くありません! 夢ですから!




5位 憂い顔の童子

ローズさん、ローズさん、ローズさん…(二度目)
今作品の導き手はドンキじゃない方のセルバンテス『ドン・キホーテ』。取り換え子からの三部作の第二編で、後期の形式が確立された(と僕が勝手に思っている)作品です。
頁をめくるといくらでも続きが読みたくなる、それが大江健三郎だ!

……私は、マーちゃんの発作を狂気とみなさない。ドン・キホーテを、たいてい悲惨な冒険にかりたてるものを狂気とよばないように……




4位 キルプの軍団

あなたがここを読んでいるということは、もうこの作品を読了済みであるわけです……(たぶん読んでない)
この作品を最初におすすめしたのは、分量が丁度よいのに加えて、どの頁も美しく(言わずもがな)、丹念に読んだ者にだけ謎解きのように明かされる主題(鳥肌!)、導き手としての他作品(ディケンズ『骨董屋』)、ラストシーンにおける浄化、などなど、大江作品ならではの素晴らしさが凝縮されているからです。ほんとにほんとに美しい作品だ! そうでしょう!?

なぜ自分を罰したいのか? マクパイクは、ネルがいちどお祖父さんの死をねがったからだ、と説明するのです。



3位 さようなら! 私の本よ!


導き手はエリオットとセリーヌ。周到に用意されたある日本語のキーワードをめぐる物語です。そしてこの小説の本当の主役、この小説で影絵のように描かれ続けれているのは、いったい誰でしょうか? それは…… ぜひご自分で探してください!!! 後期の洗練されまくった形式が爆発した作品。

古義人はそのもうひとりの自分に――歳月の進み行きのうち、それなりの年齢を重ねているはずだったが、まだ若いといえる年に思われた――おかしなところを認めていた。そして、老年に至るまで小説を書いてきた自分としては、もう静かに生きることを決意していたが、そいつのおかしなところは抑圧せずにいよう、とも思っているのだった。

単行本はかっこいいのに、文庫版のダサ装丁が残念すぎる…! 総じて言える事ですが、大江作品の多くを装丁した司修さんのそれはどれもめちゃくちゃかっこいいです。なぜ文庫版でもそれを踏襲しなかったのか、残念でなりません…




2位 懐かしい年への手紙

ギー兄さん、ギー兄さん、ギー兄さん…(三度目)
主にダンテ『神曲』に導かれて、物語は進みます。

おそらくこの作品だけでも、大江健三郎は世界でもっとも偉大な作家の一人になったことでしょう。しかしこの後も彼はめちゃくちゃに美しい小説を次から次へと書きまくり、圧倒的な高みまで上り詰めていきました。

――パパは、寝言をいっていたよ、と弟はいった。ギー兄さんとか、「夢の時」とか、ほかの言葉はよく意味がわからなかったけれど。そのうちヒカリさんが返事をしたのね、パパの寝言に、はい、わかりました! と。それからパパは黙って眠ったんだよ……

せっかくですから山川訳のダンテも読みましょう!




1位 燃えあがる緑の木

絶対にこの作品が1位です。大江健三郎は何という作品の作家か? と聞かれたら、僕は『燃えあがる緑の木』の作家だと答えます。ベートーヴェンが第九ではなく運命と田園の作家であるのと同じ意味で、彼は『燃えあがる緑の木』の作家です。アメノウオにいざなわれて、僕たちは、すべてが美しい小説世界へ入っていきます。

水音がした。脣の端から羽虫をのぞかせたアメノウオが、一瞬宙にとどまった後、跳ねあがった時ほどの飛沫もたてず暗い流れに戻っていた。

何度読んでも、どこを読んでも、僕は泣いてしまう、そういう小説です。この世界に存在するあらゆる芸術作品のなかで、僕が1番好きな作品です。どうかみなさんも読んでみてください。



5. やっぱりスキスキ健三郎

ああ大江健三郎さん! 好きだ好きだ好きだ! 聞いちゃくれないと思いますが、僕はあなたが好きだ! 記事の都合上たまに呼び捨てにしてたけど、本当はあなたのことを呼び捨てにしたことなんてこれまでの人生でただの一度もありませんでした。優しい大江さん、あなたが大好きです。

気持ち悪すぎる文章を読んでくださって、本当にありがとうございました! 記事のために読み直していたら、やっぱり健三郎大好き! どうかみなさんも僕のような気持ち悪いファンになってください! よろしくお願いします!


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