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ポストモダンの終焉〜脱構築が不正に転化するとき〜


1.ナルシスティックな反省主義

ポストモダンという大きな物語――特にデリダの脱構築――は、その誕生の背景において、マルクス主義やナチズムといった全体主義的なイデオロギーへの対抗策として機能してきた。

それは、普遍的な真理や固定された価値観を疑い、歴史や社会における権力構造を解体することを目指すものであり、その時代には一定の意義を持っていた。

しかし、その後の展開において、このポストモダン思想そのものが一種の「大きな物語」と化してしまったのも事実だ。

以下は、かつて浅田彰とともにポストモダン旋風を巻き起こした柄谷行人の分析である。

特にそういう傾向が見られたのはアメリカだったと思う。学生たちも、こぞってディコンストラクションに基づく博士論文を書いたりして。だけどそういうところでは、ディコンストラクションは、本来の危うさを失って、型にはまった権威主義的なものになる。僕が20世紀の終わりに書いた『トランスクリティーク』には、ディコンストラクションへの批判という含みもあった。思想には“移動”が必要だ、と。どこでもどんなときにも有効な方法なんて、ないんだから。

理論的な行き詰まりで神秘主義に接近 タイガーマスクで近所を歩き回った:私の謎 柄谷行人回想録⑰
記事:じんぶん堂企画室


ここから分かるのは、象牙の塔にこもるインテリたちが、脱構築やポストモダン理論を武器に知的生産に邁進する間に、「全体主義的なイデオロギーへの反省を怠らなければ大丈夫」という、ある種の自己満足的な物語(ナルシスティックな反省主義)を作り上げた、ということである。

この物語は、学術的には多くの成果をもたらしたかもしれないが、現実の社会における問題を解決するどころか、むしろその追認に留まることとなる。

それが「平成」という「失われた30年」を産み、ここへきて「脱構築」は「不正」と化してしまった。

ポストモダンの理論は権力構造を批判する一方で、具体的な社会的課題への対応策を提示することはほとんどなく、抽象的な綺麗事の域を出ることができなかった。


2.ポストモダンの失効

その結果、ポストモダンの物語は、現在の社会ではもはや有効性を失っている。

日本では山上徹也の事件が示すように、個々人が抱える社会的孤立や絶望は、イデオロギーの批判や権力の脱構築では解消されない。

アメリカではトランプが再び大衆の支持を集め、フランスやドイツでは極右政党が移民規制を訴えながらその勢力を拡大している。

これらの現象は、ポストモダン的な「権力の解体」や「反全体主義」の物語が現実の問題に答えを出せなかったことを如実に物語っている。

というよりも、今や大衆はそのような抽象的な議論を求めていないのだ。

人々が真に求めているのは、正規と非正規の間にある身分差別や、悪化し続ける雇用状況、税制度の不平等といった、日常の現実に根ざした問題への具体的な解決策である。


3.ポストモダンの教訓と限界

ポストモダン思想が果たした役割は、確かに歴史的には重要だった。普遍性や絶対性を批判し、権力構造を解体する視点は、近代の理性主義に対する重要な反省となった。

しかし、その批判的な視点があまりにも抽象的であったために、多くの人々にとって現実感を欠くものとなり、実際の社会変革にはほとんど寄与しなかった。

むしろ、現代に必要なのは、ポストモダンが解体した「大きな物語」を再構築する作業だ。

それは、普遍性や絶対性を盲信するのではなく、具体的な現実に根ざした課題に対応する「小さな物語」を積み重ねることで、人々が共感し、実感を伴う価値観を共有する試みである。

ポストモダンが生み出した批判的な視座を土台としつつ、それを現実社会に応用し、新たな物語を紡ぐこと。

ポストモダンの失効を嘆くのではなく、その限界を踏まえた次のステップを模索すること。

つまり、具体的な課題への対処と、共感を呼び起こす物語の再構築こそが、これからの時代に必要な営みである。

ポストモダンの教訓は、「全体主義への反省」だけではなく、現実の中で「大衆とともに歩む物語」を紡ぐことの重要性を私たちに示している。


おまけ

ここまでを踏まえて、他者の作った「新たな物語」に全ベットすることはオススメしません。
それはあくまで「他者」が「自らの人生を『より良く』生きるために、心血を注いで紡いだ物語」であり、「それに乗っかれば間違いない」という類のものではないからです。
あなたにはあなたの個性(得意不得意、イデオロギーや生い立ち)があり、それに応じた最適解は自分自身で創るしかないのです(古田更一『個性経済学』)。
その上で、参照あるいは批判すべき物語を以下に紹介します。

・初田龍胡『PPP-戦争論』

・橘玲「幸福の資本論」、「DD論」

・宮台真司「界隈塾」

・FPもとこ「能動経済」

・ホモ・ネーモ「14歳からのアンチワーク哲学: なぜ僕らは働きたくないのか?」

・ぱくもと「陽キャ哲学」

・山本太郎「消費税ゼロ!!」


amzn.to/3Ny34l7


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