緘黙症の子に箱庭療法をやってもらいました〜不登校支援にも
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箱庭療法というのを聞いたことがあるでしょうか?
文字どおり砂を敷き詰めた大きめの箱(縦 57cm・横 72cm・高さ 7cm)を用意し、別におもちゃを大量に用意して、それを箱の中に自由に配置してもらうというだけのものです。
箱の内側は、底と壁ともに青色に塗られており、空や海に使うことができます。診察室でカウンセラーと二人きりという枠と、箱の枠、二重の枠で守られており、砂の感触も気持ちよく、安心して取り組める環境にあります。
誰でも(主に子供)気軽に行える、というのが良いところで、特に言葉で表現するのが苦手な子供や、緘黙症といって学校や公共の場で(あるいは自宅でも)全く話さなくなってしまった方などを対象に行うことが多いです。
意義としては、決められた空間に、ただ砂に触れて自分の好きなように何かを作ることで、カタルシス効果(心の浄化作用)があります。言葉で表現することが難しいような子でも、いろいろと表現することができ、本当にただそれだけでいいのです。またユング心理学の考えを取り入れたものでもあり、無意識領域が表現されるのも面白い点です。
つい最近この箱庭療法をやってもらった緘黙症の患者さんがいるのですが、この方は公共の場はおろか、家でも全く話せなくなってしまった(全緘黙)のですが、箱庭を前にするとサッととりかかり、次々と見事な作品を完成させてくれました。
個人情報保護のため実際の作品をお見せすることができないのが大変はがゆいのですが、1年以上話すことができなかった方とは思えないほど見事な作品をたくさん作ってくれました。
週に1回、全部で10回弱やってもらったのですが、初回は人や動物、木や病院、教会などを配置して、全員正面を向いているような作品を作ってくれました。「前向きに」と筆談で表現してくれ、何かこれから良くしていきたいという意思を感じました。
その後も見事な動物園を作ってくれたり、時には真ん中に箱だけ置いて「全部捨てたい」と自暴自棄になったりもしましたが、最後のセッションではヒーローと悪役の人形が3対ほど向き合う作品を作ってくれました。
箱庭療法に関しては、ノイマンの段階説という説があるのですが、
①動物的植物的段階(本能的で無意識的なものを表現)
②闘争の段階(対立や衝突を、戦いなどの動きとして表現)
③集団への適応の段階(成長や安定を秩序ある世界として表現)
といった段階で作品を作っていくという説があります。これもユングの集合的無意識(人類、人間社会の共通の無意識)から唱えられた説ですね。
また初回では「自分はこうである」といった現状を表し、最終回では「自分はこのようになる、なった」と自分が箱庭療法を通じて変われた部分を表現するらしく、
この方の場合、初回の箱庭では登場人物全員がどこか遠くの見えない目標に向いていた作品が、最終回では登場人物が向き合っている、これから自身の課題に向き合っていくことを表現するような作品が見られました。
箱庭療法を通じて緘黙の患者さんが「話せるようになりました!」、との報告は残念ながらできませんでしたが、箱庭の回数を重ねるにつれて徐々に表情もほぐれ、また担当の心理士とも打ち解け「安心して自分を表現できる場所」として認識してくれたのは間違いありません。
緘黙にしても不登校の子にしても、話すことや学校に行くことを促すのではなく、箱庭療法のように安心して自身を表現することができる環境・居場所を作ってあげること、周囲はただそれを見守ってあげる、というのが必要なことなのかもしれません。