現代に生きる私たちは視覚情報にさらされ過ぎている
身近なものが引き起こす「錯視」
突然ですが、下図↓の模様、
どこかで見覚えがありませんでしょうか?
ピンと来た方も多いかとおもいますが、天井の模様です。
オフィスやスーパー、ありとあらゆる所で見かけますよね。トラバーチン模様と呼ばれているらしく、石灰石を基に作られているそうです。
表面が凸凹しているため吸音性にも優れ、耐熱性もあり、かつ安価だそうです。
病院でも広く使われており、
私が勤務している病院の天井にも、
この「トラバーチン模様」が使われています。
ある時、とある入院患者さんが私に言いました。
「毎日ベッドで仰向けで寝ていると、天井に人の顔が見えるんだよね」
詳しく聞いてみると、天井のトラバーチン模様の
一部分を指し、そこに人の顔が見えると言い張るのです。
これは錯視と呼ばれる症状です。
実際に存在する物(ex.天井の模様)を別の物(ex.人の顔)に捉えてしまうことを言います。
この方は認知症の患者さんなのですが、
認知症の患者さんの中には幻視(※)や錯視を呈する方が少なくない割合でおられます。
※錯視との違いは、模様などがない、実際には何もない所に何かが見えるのが幻視。
錯視を調べる検査
ここでまた、図をご覧いただきたいと思います。
お気づきかと思いますが、
今度は本当に人の顔が見えます。
これはノイズパレイドリアテストと呼ばれるテストで、40枚にわたって人の顔が描いてある図と、描いていない図を被検者に見せていきます。
錯視や幻視が問題となっている方は、
人の顔が描いてある図を見て「ない」と答えたり、
あるいはその逆で、人の顔がない図の中に人の顔が「ある」と答えたりします。
入院中の認知症の患者さんが、天井のトラバーチン模様を見て「人の顔が見える」と言うのも頷けますよね。
視覚的な侵襲が強い心理検査
次は下の図です。
ご存知の方もいるかもしれませんが、これはロールシャッハテストと呼ばれる心理検査で、
インクのシミが何に見えるか、を問うことで被験者の深層心理を探ろうという検査です。
実はこのロールシャッハテストですが、誰でも簡単に行えるわけではありません。
非常に侵襲性が強い検査と言われており、見る人によっては精神状態が悪くなるため、実施できる方を慎重に見極めてから行います。
QRコードが怖い
次はご存知QRコードです。
これは実際に統合失調症とASD傾向のある患者さんがおっしゃっていたのですが、
「QRコードが怖くて見られない」と言うのです。
おそらくはASDの感覚過敏と、統合失調症の妄想知覚(見た物聞いた事を妄想的に捉える、ex.QRコードから自分の情報を抜き取られる)と、
ASDと統合失調症のどちらにも共通する易刺激性(いしげきせい)と呼ばれる、些細な刺激に反応しやすい状態と、
そういった理由が重なって「QRコードが怖い」と感じるのでしょう。
ゲームのやり過ぎで幻覚妄想状態に!?
他にもゲームのやり過ぎで幻覚妄想状態になっているのでは?という方を何名か診たことがあります。
ゲームは言うまでもなく強い視覚刺激を伴います。
ゲームと幻覚妄想状態の直接の因果関係は解明されていませんが、そういった方を何名か診てきた経験則からすると到底関係がないとは思えません。
ゲームとASD、統合失調症(幻覚妄想状態)は少なからず関連があるのではと個人的には思っています。
おわりに
人は情報の8割を視覚から得ている、というのはよく知られた事実ですが、
現代の過剰な視覚刺激は、我々の思っている以上に脳にストレスを与えていると言えるでしょう。
最後までお読みいただきありがとうございました。