【医療コラム】 淘汰される病院
■病院が赤字になってしまう理由とは
みなさんは総務省のホームページに公立病院の病院事業決算状況が載っていることを知っていますか?
勤務する病院がもし潰れてしまったら。自分だけではなく職員も患者さんも、路頭に迷ってしまう可能性があります。病院は潰れないものという固定概念があるかもしれませんが、実際のところ半数以上の病院は赤字です。幸いにも私が勤務してきた病院は倒産したことありませんが、診療所は倒産を経験しています。
あえて厳しい話になりますが、私が見た「衝撃の病院」エピソードは、まさに自転車操業であった病院の話です。
2015年派遣法改正により、派遣先の同種の業務に従事している労働者の賃金水準の情報提供が、努力義務から配慮義務に改正されました。すなわち派遣看護師について、給与は〇〇円、派遣会社には●●円支払っています、など詳しい明細が必要になる可能性が出てきたのです。私は病院の経営など難しいことはわかりません。大学医学部では、そのようなことを習ったことがなかったからです。
しかし、友人である派遣看護師、いわゆるトラベルナースに給与明細を見せてもらってびっくり仰天でした。
え?こんなに病院は支払っているの?
看護師は重労働で就職に関していえば明らかに売り手市場でしょう。常勤看護師よりも遥かに割のいい給与が支払われているのです。これを見れば私のような経営に素人な者でも、病院の人件費が経営を圧迫させていることはすぐにわかりました。
■節約節約ばかりの病院
病院経営のことはわかりませんが、運営会議に出ているので、小児科は人件費がかかるということは知っています。手厚い医療を施そうと考えれば人件費はかさんでしまうのは仕方のないことです。また、せっかく人員を配置しても、小児科は天気や季節で混雑が変わるので、閑古鳥が鳴いている日もあれば、さらなる増員がなければ混雑して診察にならない日もあります。ですから小児科は人件費が高いため、運営会議ではやり玉に挙げられます。せめて改善策を出してください、と詰問されることもよくありました。
そこで勤務する病院の財務表を確認したところ、まさに赤字病院でした。とくにボーナス期の赤字はすさまじいものです。そしていつしか病院は、医療廃棄物のごみ箱さえも揺らしてカサを減らさなければならくなり、医療廃棄物以外を医療廃棄物のごみ箱に捨ててしまうと始末書賞罰並みの厳しい管理下となるのでした。医療用具は安価なものへと方針がとられていたので医療手袋も少し力を入れると破れてしまい、使うのにコツが必要なものに変更されました。
■病院も経営能力が問われるもの
実は小児科医は燃え尽き症候群は多いことがわかっています。時間外患者のコンビニ受診を始めとする激務があるため、皆さんの中でも小児科医になることを敬遠されたこともいると思います。しかし、小児科医は「子どもたち」のためにという、やりたい仕事をできていることが、小児科医を支えていることがわかっています。医療従事者の燃え尽き症候群は、給与を始めとする待遇よりも「やりたいことができている」かどうかが、大きいことが報告されています。
赤字病院では使いたい医療機器も使えず、やりたいことができなくなる可能性があり、燃え尽き症候群が増えます。こうなると人間関係も悪くなる。辞めていく医療従事者ばかりで残された者はさらに疲弊していく……。
それが、まさしくその病院でした。入院病床の看護度を守るために、派遣看護師を雇う。燃え尽き症候群はゆでガエルと称されるように、だんだんとぬるま湯から煮詰められてしまうのです。
しかし、医療従事者は一般会社に勤務する人よりも資格があることから、転職先を探そうと思えば探せます。そのため、心身に負担のかかる病院だと判断すれば、次の職場に勤めるために早期離職をし、燃え尽き症候群とならずに済むのでした。
厚生労働省に勤務する友人の医師に黒字になった病院の改善策を聞いたところ、例えば朝一番は処置室が採血で混むので時間を調整して人員を割く。そうすれば処置室は、そのあとそこそこ落ち着くので、人員をオペ室や内視鏡室の応援に回すんだよ。そうすれば大事な医療従事者を効率よく配置できるのだよと教わりました。
そうなんだ……。
病院は利益を生み出す場ではないことはわかりますが、経営の健全化は非常に職員を支えるために必要です。経営に長けた人が病院経営陣にいれば、ああいったことにはならなかったでしょう。そして大学医学部でそういったことを学びたかったと思うのでした。