フランス人流お食事会
先日、フランス人の友達宅に夕食会に招かれた。彼女は3人のティーンエイジャーの子を持つシングルマザーであり、経営者でもあり、多忙な生活を送っている人だ。そんな人だし、何より知り合った期間が一年足らずと浅いので、何を手土産に持って行ったらよいか悩んだ。
数週間前、「〇〇(私)のブログ用に一緒に料理をしよう」と言われていたので、てっきりその話がすぐに実現するのか、と思い、気合を入れて前日爪を切り(もともと爪は短い)髪を結ぶゴムを用意し、カメラをもって、意気揚々と指定された時刻にお宅へお邪魔する。イタリア人だとこうすぐに実現することはあり得ないが、きっとフランス人は違うのだろう、さすがフランス人だな、と感心し、喜びがほとばしる。
さて、今回の夕食会の提案者というか連絡者は共通の友人のMさんで、彼女には「余っているお酒だけ持ってきてくれればいいよ」と言われていたので、子供用のチョコレートを添えて、飲まないお酒をリサイクルに出す。家の中はオーブンで焼かれている最中のケーキの香りが充満し、甘くてとても良い感じだ。
すぐに料理の手伝いを、と思い、手を洗って居間に戻ると、何やら二人がこそこそ話をしているではないか。「△△、手伝うことある?」と聞くと、「今の話聞こえちゃった?」というので、「えっ、なに?最後の部分しか聞こえなかったよ」と答えると、「実は今日はMの誕生日なのよ」と言うではないか。「ひょえっ、そ、そんな、Mさんの誕生日だなんて知らなかったし(Mさんと知り合ったのは△△よりも後だ)、だからプレゼントもなければ、ご飯を一緒に作ると思っていたのに違うの?」というと、「食事は昨日私が仕込んで温めるだけだから」という。
つまり、私はよい意味ではめられたわけだ(笑)
一緒に料理をするわけでもなく、誕生会だと知らずに呼ばれ、私にとっては「ただ夕食をご馳走になる会」だったわけだ。
しかし、知らなかったのだから、Mさんへのプレゼントがないことを恥じる必要もないので、気を取り直して夕食の内容を聞く。
「ラタトゥイユよ。その上にポーチドエッグを載せて食べましょう」という。「ラタトゥイユか、豪勢だったらどうしようと思ったが、ヘルシーでよい感じだな」と心の中で安堵する。
実は私は渡伊して1年以内に渡仏しなかったことを悔やんだ身ゆえ、フランスには10回以上は行っている。だが正直、フランスでラタトゥイユを食べた覚えは1、2度しかなく、スーパーのお惣菜コーナーを見ても、クスクスやタブレはあってもラタトゥイユは見かけたことがない(もしくは油でギトギトで食べる気がせず、目に入ってこないのかもしれない)。ただ△△によると、家庭ではしょっちゅう作って食べる料理なのだそうだ。
つまり、イタリア人が、日本人は毎日寿司を食べていると思っているように、私もフランス人は日々バゲットやクスクス、タラモサラダ的なものを食べていると思っていたがそうではなかったわけだ。
いやに驚きに満ちた日だ。
それでは、ラタトゥイユの基本的な説明と、△△の秘訣をご紹介しよう。
ちなみに、イタリアにはカポナータというラタトゥイユと酷似した料理がある。イタリアの方が野菜のサイズが大きく、入っているハーブの種類が違うが、ベースの野菜はほぼ一緒である。
実にさっぱりとした味だが、カマルグの塩特有の甘みが味に深みを増している気がする。自分用にも買ってきたので、これから野菜を煮る際にはこの塩を使って違いを感じてみたいと思う。
最後に、もはや私の定番となった手口、何が何でも映画を併せる術が今回も登場する。今回はカマルグにちなんだ「白い馬(Crin-Blanc)」というLamorisse(ラモリス)監督のモノクロ映画にしよう。
この映画は日本では2008年に「赤い風船(Le Ballon Rouge)」との二部作で公開された。当時は私はまだ東京に住んでいたので、確か渋谷の文化村ル・シネマに見に行ったように思う。
カマルグの大自然で駆ける野生の白い馬と、パリ20区にあるメニルモンタン(Ménilmontant)を赤い風船を追いかけて走る少年、どちらも非常に印象的で、特に赤い風船の方は夢の世界のようで可愛く、気に入り、FBにコメントをしたところ、Lamorisse監督の孫娘、つまり、赤い風船を追いかけて走るPascal少年の娘からコンタクトがあり、暫くチャットをしていた時期があった。今では私はFBをほぼ開かないし、孫のLさんも社会人になり、暇なティーンエイジャーではないので、バーチャルな友達を解消してはいないが、会話することはない。しかし書きながら懐かしくなったので、明日当たり、LさんのFBを見てみようかな、と思う。