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岡田将生研究㉚古典的で新しい「ザ・トラベルナース」シリーズの意義

 放送中の主演ドラマ「ザ・トラベルナース」が絶好調の岡田将生。第4話終了時点で、世帯視聴率、個人視聴率は朝ドラに次いで2位、タイムシフト視聴率では朝ドラや大河を含めた全ドラマでトップの数字を記録している。視聴率だけではなく、視聴中にどれだけ画面に視線を向けていたかの注目度ランキングでも個人全体、コアともに上位にランクインしており、多くの人に見られていることは数字が証明している。だが、他の地上波ドラマに比べてお勧め記事や絶賛記事が出ることは少ない。なぜなのか?時代の潮流に逆行し

    • 岡田将生研究㉙「虎に翼」航一の魅力と6つのハードル

       2024年前期NHK朝ドラ「虎に翼」は、女性初の裁判官となった主人公の人生とともに「人権」について正面から向き合い、原爆裁判や尊属殺裁判など重厚な問題を扱った社会派ドラマであると同時にエンターテイメント性も兼ね備え、好評のうちに最終回を迎えた。岡田将生は当作品で、主人公寅子(伊藤沙莉)の2番目の夫星航一(正確には事実婚)を演じ、連日ネットを賑わわせた。朝ドラの相手役と言えば、主人公と恋に落ち、主人公を陰で支える美味しい役、であるはずが、さすがは異色の名作朝ドラ、一筋縄では行

      • 岡田将生研究㉘異例づくしの難役「ラストマイル」梨本孔

         2024年夏公開「ラストマイル」は、公開3週目でで30.2億の興行収入を上げ、現在も大ヒット街道を驀進中である。無差別爆弾テロ事件の裏側で起こる物流業界の縦軸の軋みが中心に描かれたこの作品で岡田将生は、爆弾事件が起こるブラックフライデー前夜に巨大ショッピングサイトのセンター長として赴任してきた主人公舟渡エレナ(満島ひかり)の部下である梨本孔を演じた。岡田本人が「無味無臭の役で、演じるのが難しかった」と語るこの役は、岡田がかつて演じたことのない種類の役であると同時に、大作映画

        • 岡田将生研究㉗「ゴールド・ボーイ」「1122いいふうふ」冷と暖、真面目さの逆ベクトル

           2024年3月公開の主演映画「ゴールド・ボーイ」、7月配信のアマゾンプライムドラマ「1122いいふうふ」、作品の方向性も楽しみ方も役柄も何もかも真逆といっていい新作2作品で、岡田将生は全く別の新たな魅力を発揮している。前者は冷徹な連続殺人鬼、後者は優しい公認不倫夫で、どちらも一般には理解しがたい人物だ。共通点と言えば、30代半ばの子なし妻帯者、そして根底に潜む歪んだ真面目さ。  「ゴールド・ボーイ」(金子修介監督)は、完全なるエンタメ作品として作られており、岡田の演じた東

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          岡田将生研究㉖「掟上今日子の備忘録」徹底解剖!隠館厄介の吸引力

           岡田将生の出演ドラマの人気投票で、放送から10年近くたっても尚、必ず上位にランクインする2015年放送の「掟上今日子の備忘録」。コミカルさとシリアスのバランスが絶妙でファンタジックな傑作だ。岡田の演じた隠館厄介は、忘却探偵掟上今日子(新垣結衣)の依頼人であり助手であり事件の容疑者でもある。一見タイムリミットミステリードラマであるが、脚本を書いた野木亜紀子氏は自身のツイッターで「ラブストーリーです。眠ると記憶がリセットされる今日子さんに恋をしてしまった不運な厄介の物語」と明言

          岡田将生研究㉖「掟上今日子の備忘録」徹底解剖!隠館厄介の吸引力

          岡田将生研究㉕今こそ語りたい「小さな巨人」山田春彦の特異性

           2017年放送連続ドラマ「小さな巨人」。岡田将生が演じたのは、主人公香坂(長谷川博己)と時には敵対し、時には結託して事件解決と警察組織そのものに挑む警察官山田春彦。東大卒のエリートでありながら、内閣官房副長官である父親(高橋英樹)との確執を拗らせてるが故に、あえてノンキャリアの道を選んで警視庁に入庁したという捻くれ者である。日曜劇場初出演の岡田(当時27歳)は、本作にて主演の長谷川を始め、曲者の捜査一課長小野田役の香川照之、たたき上げの所轄刑事を演じた安田顕などのベテラン実

          岡田将生研究㉕今こそ語りたい「小さな巨人」山田春彦の特異性

          岡田将生研究㉔「伊藤くんA to E」とはなんだったのか?

           俳優岡田将生を語るとき、かなりの頻度で引き合いに出される映画「伊藤くんA to E」(2018年)で演じた伊藤くん。ひとことで言えば「ヤバい奴」いや「かなりヤバい奴」。こんな役も見事に演じた岡田将生、ということなのだが、「伊藤くんA to E」という作品自体は、残念ながらヒットしたとは言いづらく、話題作というわけでも、賞レースにのったわけでもない。だが、岡田の俳優としての実力や個性について言及するときに欠かせない役であることは、誰もが認めるところ。そんな不思議な「伊藤くんA

          岡田将生研究㉔「伊藤くんA to E」とはなんだったのか?

          岡田将生研究㉓2023年総括:原点回帰と新たなステージへ

           2023年の岡田将生は、映画「1秒先の彼」で本格スクリーンデビュー作「天然コケッコー」(2007年公開)以来の山下敦弘監督とのタッグで注目を集め、俳優を休もうかと悩んだ時期に出会った代表作、ドラマ「ゆとりですがなにか」(2016年、2017年SP)の続編映画「ゆとりですがなにかインターナショナル」公開で話題となった。どちらも岡田の魅力を知り尽くす人気脚本家宮藤官九郎の作品であり、否応なくデビューからこれまで岡田が歩んできた道のりを振り返らざるを得ず、その成長ぶりに感嘆し、ど

          岡田将生研究㉓2023年総括:原点回帰と新たなステージへ

          岡田将生研究㉒愛される理由

           近頃岡田将生は「パブリックイメージ」について悩んでいるらしい。2022年放送のラジオにゲスト出演した時も、2023年7月に宮藤官九郎のラジオに出演した際にも、同じようなことを言っていたので、どうやら本人にとっては深刻なことのようだ。ここで少し考えてみて欲しい。芸能人のパブリックイメージは、故意に作られるものではなかったか?売り込むためにイメージを作りこんで、2枚目で行くか、3枚目路線で売るか、戦略を立てるものだと思っていた。逆に言えば岡田のバラエティやトーク番組で見せる姿は

          岡田将生研究㉒愛される理由

          岡田将生研究㉑ファンタジーとリアリティーの狭間で

           2021年の人気ドラマ「大豆田とわ子と三人の元夫」。岡田は、主人公とわ子の3番目の夫中村慎森をシニカルかつ愛らしく演じ話題をさらった。冒頭で、三人の元夫をなぞらえて「1回目はsuddenly、2回目はcomedy、3回目に至ってはfantasy」というとわ子の父の台詞がある。1回目の夫とは究極のモテ男(松田龍平)との急な結婚、2回目の夫は面白可笑しい男(東京03角田晃広)との結婚。では、3回目のファンタジーとは?  この台詞は「”岡田将生=ファンタジー”のイメージは視聴者

          岡田将生研究㉑ファンタジーとリアリティーの狭間で

          岡田将生研究⑳「謝罪の王様」~出会いは新たな扉を開く

           2013年公開「謝罪の王様」は、脚本宮藤官九郎×監督水田伸生×主演阿部サダヲの黄金トリオがおくる3作目のコメディ映画として注目を集め、「謝罪エイターテインメント」という新しい切り口と豪華な出演者が話題を呼び、興行収入21.8億円のヒット作となった。本作で岡田は、”CASE2.セクハラを謝りたい!”で、東京謝罪センターに依頼する沼田卓也を演じ、「気持ち悪い」と評判になった。特筆すべきは、クドカン、水田監督、大人計画といったその後のキャリアに大きく関わることになるビッグネーム製

          岡田将生研究⑳「謝罪の王様」~出会いは新たな扉を開く

          岡田将生研究⑲悲恋ものの名手

            近年、映画「ドライブ・マイ・カー」や「CUBE」などで狂気の演技が話題の岡田将生だが、かつては恋愛映画にも引っ張りだこの時期があった。2007年「天然コケッコー」で、ラブストーリーと呼ぶにはあまりに初々しく瑞々しい作品で本格スクリーンデビューを飾ると、2013年の「潔く柔く」まで、実に9本の恋愛要素を含む映画に出演している。そのうちドキュメンタリー風に高校生カップルを描いた「ハルフウェイ」、がっつり恋愛ではなく憧れの王子を演じた「ひみつのアッコちゃん」を除く6本には、死の

          岡田将生研究⑲悲恋ものの名手

          岡田将生研究⑱キャリアにおける”イケパラ”の重要性

           第一線で活躍する俳優には、必ず売れるきっかけとなった作品がある。岡田将生にとっては、2007年に放送された人気テレビドラマ「花ざかりの君たちへ~イケメン♂パラダイス」(堀北真希主演、通称イケパラ)がそれにあたる。小栗旬、生田斗真、水嶋ヒロといった当代きっての人気イケメン俳優がひしめくこの作品で演じた関目京悟役によって、岡田将生の名は広く世間に知れ渡ることになった。  ”イケパラ”は、初回15.9%であった視聴率が最終回には21.0%まで伸びた、いわゆる勢いのあるドラマだっ

          岡田将生研究⑱キャリアにおける”イケパラ”の重要性

          岡田将生研究⑰CUBEで見せた極上の狂気

           2021年映画「CUBE 一度入ったら、最後」。豪華キャストで話題を呼んだこの作品、公開されるや否や「狂った岡田将生最高!」と岡田の狂人演技に注目が集まった。岡田の狂気の演技の出発点といえば2009年公開の映画「重力ピエロ」。一見普通の青年に見える春(岡田)が抱える孤独の闇は深く、殺意を持って炎の中にたたずむ姿は、恐ろしく美しかった。それから12年、「CUBE」で岡田が見せた圧倒的な狂気、観るものを恐怖に陥れる「底知れない得体の知れなさ」の正体とは?  CUBEで岡田が演

          岡田将生研究⑰CUBEで見せた極上の狂気

          岡田将生研究⑯舞台作品に見る美しさと危うさ~倒錯の世界

           先日、主演ドラマ「ザ・トラベルナース」が大好評のうちに最終回を迎えた。人気の秘密は、練られたストーリー展開に加えて、毎話のお約束、岡田演じる主人公那須田歩と中井貴一演じる九鬼静のコミカルなやり取りにある。師弟のようで親子のようでもあった2人の本当の関係性が明らかにされた最終話。「運命の人」という占いの言葉が飛び出し、看護師仲間からあらぬ誤解を受けたまま物語が終わり、さらに公式ツイッターが「いつまでも幸せに」のタグをつけたものだから、BLファンが騒然とし始めた。思い返せば「リ

          岡田将生研究⑯舞台作品に見る美しさと危うさ~倒錯の世界

          岡田将生研究⑮羽生晴樹から那須田歩への系譜

           現在放送中のドラマ「ザ・トラベルナース」の主人公那須田歩は、アメリカ帰りの意識高い系看護師で、思ったことをズバズバ言う一見いけ好かない人物だが、「歩ちゃん」と看護師仲間にからかわれる愛されキャラでもある。いけ好かなさと愛されキャラという相反する性質が役の中に同居する、岡田将生の真骨頂。岡田のいけ好かないエリートキャラといえば、2013年の大ヒットドラマ「リーガルハイ」の羽生晴樹を思い起こす人も多いだろう。羽生から那須田へ、必然とも言える役柄の変化の系譜をたどる。  羽生と

          岡田将生研究⑮羽生晴樹から那須田歩への系譜