岡田将生研究㉚古典的で新しい「ザ・トラベルナース」シリーズの意義

 放送中の主演ドラマ「ザ・トラベルナース」が絶好調の岡田将生。第4話終了時点で、世帯視聴率、個人視聴率は朝ドラに次いで2位、タイムシフト視聴率では朝ドラや大河を含めた全ドラマでトップの数字を記録している。視聴率だけではなく、視聴中にどれだけ画面に視線を向けていたかの注目度ランキングでも個人全体、コアともに上位にランクインしており、多くの人に見られていることは数字が証明している。だが、他の地上波ドラマに比べてお勧め記事や絶賛記事が出ることは少ない。なぜなのか?時代の潮流に逆行しているにも関わらず、尚視聴者をくぎ付けにする本作の底力とは?

 コロナ禍を経て地上波ドラマの配信が加速度的に進み、ドラマ制作が激増している。各種配信プラットフォームのオリジナルドラマや映画も多数作られるようになり、視聴者の好みも多様化した。結果、地上波ドラマの視聴者離れが止まらず、ドラマの視聴率は下落の一途をたどっている。代わりに、ドラマの話題性は「視聴率」よりも「質」に注目が集まるようになった。2024年現在の傾向としては「ゆったり丁寧に描かれる静かなドラマ」「伏線を回収していく考察系ドラマ」「社会問題に鋭く切り込んだドラマ」が質が高いと評価されやすい。「ザ・トラベルナース」はそのどれにも当てはまらず、そこが最大の魅力なのだ。

 医療、バディもの、コメディ、決め台詞、主人公の成長物語というヒットドラマの王道の要素をふんだんに盛り込みながら、看護師という女性優位の職場で年の離れた男性2人が奮闘するという点が新しい。ケンカばかりしてるバディものも古典的ではあるが、丁寧な言葉遣いで罵倒し合うのが新しい。主人公がスーパーナースのはずなのに、周囲からの扱いは雑なのも新しい。地上波ドラマに勢いがあった頃のテンポ感で、どこか懐かしさもあり、1話完結で身近なテーマ。一方、岡田と中井の佇まいに品があり、スタイリッシュで現代的なのも好印象だ。普遍的な作りでありながら今の時代のエッセンスも散りばめられていて、単純に面白い。

 このスピード感を維持できている背景には、出演者の質の高さがある。話のテンポが速いということは、それだけ台本が分厚いということ。ゆったりドラマに比べて、台詞の量も、場面の転換も、それに伴う所作も全てに渡って分量が多いはずだ。実力のある俳優、熟練したスタッフが揃う現場では、密度の濃いドラマ制作が可能になる。それに加えて抜群のチームワーク。土台のしっかりしているドラマは揺るがない。

 ナースの仕事ぶりに関してはとことんリアリティを追求している。岡田も前作に比べて格段にナースの所作や処置の手際が良くなっており、優秀なナースであることが、説明されなくても見て取れる。手術シーンでなくても、処置の場面で緊迫した空気を作り出せている点も視聴者を引き付ける要因であろう。出演者全員の台詞が聞き取りやすく、視聴者を置いてきぼりにしない安心感と安定感。コミカルなシーンと心揺さぶられるエピソードのバランスも良い。

 岡田演じる歩は、相変わらず短気で声を荒げるシーンが多いが、そこが不快感に繋がらない点にも注目したい。岡田の大声の台詞には、適度な抑揚と緩急がある。語頭と語尾が柔らかく、要所要所での間が効果的で、時折声を落として、また上げる。この細かい技術が不快感を軽減し、台詞が視聴者にすっと入って来る仕掛けになっている。また、他のナースたちとのやり取りも台詞まわしに工夫を凝らし、より愛嬌たっぷりになってきている。患者にはとことん優しく、必ず腰を落として話すギャップも良い。愛されキャラも健在で、主人公が魅力的であることは絶対的な外せない要素である。

 だが安定した作風の「ザ・トラベルナース」は、ドラマ評論家やドラママニアの間で、高評価を得ることはないのが実情だ。テレビ朝日木曜9時枠には大ヒットドラマ「ドクターX」の影が付きまとう。高視聴率が取れなければ失敗の烙印を押されてしまう厳しさがある。なぜ岡田将生は主演を引き受け勝負に出たのか?今の時代の潮流はネットフリックスなどの配信ドラマで、同世代のライバルたちは、地上波ドラマを避け、よりギャラの良い配信ドラマへ価値を見出しているとささやかれる。岡田自身も配信ドラマの主演も映画への出演も果たしているが、本作の成功は、岡田のキャリアにおいて大きな信頼を得たと言っても過言ではないだろう。いくら盤石の布陣と言っても絶対の保証はない。多くの人に見られているという事実は、それだけで価値がある。

 岡田主演作に、実力のある俳優陣がこぞって出演するという実績を作ったことも非常に大きい。だがそれ以上に、ヒットしにくいと言われるオリジナル作品でのシリーズ化率が異常に高いことも、もっと評価されるべきだと思う。岡田の単独主演連続ドラマのうち原作のないオリジナル作品は「不便な便利屋」「ゆとりですがなにか」「ザ・トラベルナース」の3本で、その全てで続編が作られているのは驚くべきことである。(原作有りW主演のSTもシリーズ化されている)自分の知る限り、こんな俳優は他に見当たらない。少なくとも他の同世代と一線を画す特筆すべき点であることは間違いなく、それだけドラマ製作側から愛されている主演俳優であることは想像に難くない。「ザ・トラベルナース」シリーズの大ヒットで期待に応え、ますます存在感を示したのではないだろうか。

 とはいえ「ザ・トラベルナース」第2シリーズは、まだ道半ば。シリーズ1作目では、静(中井貴一)の素性と病気という縦軸が最終回まで視聴者の興味を引き付けた。今作の縦軸は、働き方改革、院長の素性といったところだろうか。最終回まで目が離せないと同時に、更なる続編が作られるのか?興味は尽きない。

 

 

 

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