岡田将生研究⑳「謝罪の王様」~出会いは新たな扉を開く
2013年公開「謝罪の王様」は、脚本宮藤官九郎×監督水田伸生×主演阿部サダヲの黄金トリオがおくる3作目のコメディ映画として注目を集め、「謝罪エイターテインメント」という新しい切り口と豪華な出演者が話題を呼び、興行収入21.8億円のヒット作となった。本作で岡田は、”CASE2.セクハラを謝りたい!”で、東京謝罪センターに依頼する沼田卓也を演じ、「気持ち悪い」と評判になった。特筆すべきは、クドカン、水田監督、大人計画といったその後のキャリアに大きく関わることになるビッグネーム製作陣との出会い。当作品への出演は必然なのか偶然なのか?本作が岡田将生にもたらしたものとは?
「謝罪の王様」は企画、制作が日本テレビ放送網、配給が東宝という布陣で、岡田と浅からぬ縁のあるスタッフが実に多い。エグゼクティブプロデューサーの奥田誠司は「僕の初恋をキミに捧ぐ」(2009年)のエグゼクティブプロデューサーであり、後に「ストレイヤーズ・クロニクル」(2016年)のゼネラルプロデューサーも務めている。プロデューサーの福島聡司は、「雷桜」(2010年)、「秘密のアッコちゃん」(2012年)、「秘密THE TOP SEACRET」(2016年)のプロデューサーであり、製作に名を連ねる市川南は、「悪人」「告白」(ともに2010年)ではエグゼクティブプロデューサー、「プリンセストヨトミ」(2011年)では企画、「宇宙兄弟」(2012年)、「潔く柔く」(2013年)、「ST赤と白の捜査ファイル劇場版」(2015年)、「何者」(2016年)では製作として各作品に関わっている。「謝罪の王様」は大人計画色の強い作品であるが、岡田の本作への出演は、こちらサイドからのオファーであることは想像に難くない。
岡田が演じた下着メーカーの社員である沼田は、女性の胸の谷間をジロジロ見てニヤニヤしたり、誉め言葉が「エロい」だったり、「デリヘル」とか「風俗」といったワードを連発したり、とにかく言動が変態性を帯びていて「キモイ」の一言。2010年の「悪人」「告白」で見せた狂気は、ルックスの美しさが役の怖さを引き立てていたが、「謝罪の王様」の沼田は、今まで爽やかに見えていた笑顔までも「気持ち悪い」と思わせる怪演ぶりで、それまでの岡田のイメージを完全に覆した。また本作は、岡田にとって初めての本格コメディ作品でもあった。沼田は言動が最高に気持ち悪いが、どこか笑える要素と愛嬌がないとコメディとしては成り立たない。その微妙なラインを上手く演じていたように思う。さんざん悪口を言われて「どんな顔してるかな?」と映し出された顔が、右目から涙を一筋流している悲しそうな表情で、不覚にも可愛く見えて思わず同情してしまったし、「確かに」が「ぱしかに」になって「パスカル」になり「ラスカル!」と笑顔で目いっぱいうなずきながら連呼するシーンは必見で、強烈なインパクトがあり、吹き出さずにはいられない。
そのコメディセンスが買われたのか、演技が気に入られたのか、脚本宮藤官九郎×監督水田伸生コンビとのタッグは、3年後の日本テレビ系連続ドラマ「ゆとりですがなにか」(2016年)へと繋がって行く。本作で沼田は、酔っぱらって共同プロジェクト担当者の宇部美咲(尾野真千子)の体を触りまくり「セクハラで訴えられて」しまうが、これは「ゆとりですがなにか」で坂間(岡田将生)が「パワハラで訴えられる」という一幕に「電車に飛び込む」というモチーフとともにオマージュされており、非常に興味深い。クドカンの岡田への愛が垣間見えるようだ。
「ゆとりですがなにか」放送直後の2016年夏、今度は大人計画からオファーを受け、舞台「ゴーゴーボーイズゴーゴーヘブン」で主演の阿部と再共演を果たす。2018年には大人計画を代表する時代劇エンターテイメント作品「ニンゲン御破算」(阿部サダヲ主演)にも出演し、さらに芝居の幅を広げている。「ゆとりですがなにか」は、社会派コメディとして多くの視聴者の共感を呼び、岡田将生の代表作のひとつとなっただけでなく、松坂桃李、柳楽優弥という同世代俳優と親交を深めた貴重な作品でもある。2017年には、スペシャルドラマ「ゆとりですがなにか純米吟醸純情編」として復活し、それから6年の時を経て2023年10月、劇場版「ゆとりですがなにかインターナショナル」の公開が決定している。長く愛される作品へと成長途上中だ。クドカン作品としては、2023年7月公開の主演映画「1秒先の彼」も控えており、こちらも非常に楽しみである。(監督は「天然コケッコー」の山下敦弘)
もし「謝罪の王様」がなかったら、「ゆとりですがなにか」も大人計画の舞台もなく、岡田将生の俳優としてのキャリアは全く別のものになっていたかもしれない。ひとつの作品との出会いが、別の扉を開き、作品を通して出会った人とのつながりが、新たな作品を紡ぎ出す。2017年ドラマ「名刺ゲーム」での山本晃久プロデューサーとの出会いが、「ドライブ・マイ・カー」で岡田を世界に連れて行ったように、「謝罪の王様」は、コメディへの開花だけに留まらない大いなる可能性という未来の扉を開いたのではないか。
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