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#262【劇評・絶賛】『パン種とタマゴ姫』(1/3)生命讃歌

今日もお読みくださってありがとうございます!

先日やおら思い立って、むりくり、『カラーパープル』の劇評を書いて終わらせたのは、ジブリ美術館へ行き、この映画を観ることが決まっていたからでした。

この映画を観るのは1年ぶり3回目ですが、ずっとこれについて書きたいと思っていました。
書いてみたら長くなってしまったので、数回に分けます。

なので先に結論。
面白い!大好き!機会があったらぜひ観てください!
(ジブリ美術館では12月まで観られますが、この記事を書いている時点で12月分までチケット完売していました……また来年……!)


前段の話

観たきっかけ

昨年の夏、東京都立大学の社会人向け生涯学習講座で、ジブリ美術館の立ち上げにかかわった方の講義を聞く機会がありました。
その方が「ジブリの森の映画で好きなのは、『パン種とタマゴ姫』。王道のファンタジーだから好き」と語っていたことをきっかけに、昨年十一月、ウン十年ぶりにジブリ美術館へ。

さっそく結論ですが、大変気に入りました。
翌月にまた観に行くほどに。

ジブリの森のえいがは月ごとに作品が変わります。
また、ジブリ美術館のチケットは一か月にひとり1回までしか買えません。
そのため本来は一作品につき年に一回しか見られません。

でもこの作品は、11月の整理休館明けから12月いっぱい放映されたので、一年に2回観ることができたのでした。
今年もそのスケジュールは変わらないので、人気作品なんでしょうか。
ちなみに今年も12月にまた行く予定です。そのくらい好き。


作品のあらすじ

中世ヨーロッパっぽい世界

中世ヨーロッパっぽい世界。
(美術は、雨が少ないスペインやメキシコの乾いた感じや、イタリアのフィレンツェの街並みをモデルにしたそうです)

うさぎに似た姿の人々はよく働き、小麦を育て粉を引きパンを焼いて暮らしている。

タマゴ姫とパン種、誕生

村はずれ、茨の森の奥深くの水車小屋に住む年老いた魔女のバーバヤーガは、ある日、食事の支度中にどうしても割れないタマゴを見つけた。
自分の髪を縛っていたリボンをかぶせて、タマゴをつまんでコマのように回すと、タマゴから小さな手足が生えて、生命を得てタマゴ姫になった。
水汲み、食事の支度、パン種の仕込み……バーバヤーガにこき使われるタマゴ姫。

ある晩、パン種に月の光が差し込むとあらふしぎ、パン種はムクムクと動き出す。(このシーンはロシア映画をイメージしたそう)
タマゴ姫がリンゴで鼻をブドウで目をつけてあげ、ふたりは水車小屋から逃げ出した。

タマゴとタネの逃亡劇

パン種は自由自在に形を変えて、時には川に架かる橋となって、時には馬車の車輪にへばりついて、タマゴ姫の逃亡を手助けする。
逃亡に気づいたバーバヤーガは、逃してなるものかと木の臼に乗り空を飛んで追いかける……!


感想1:よくわかんないけど面白い!言葉のない生命讃歌

第一印象は、「セリフもないし、なんだかよくわからないけど、すごく面白かった!」でした。

理由1:気持ちのいい動き、生命力で満たされた画面

画面上に描かれた、動くべきすべてのものが動くのです。
パンフレットの高坂希太郎作画監督の文章によれば、

命のないものに命を与えることがアニメーションの原点だから、テーマ性を描くよりまず、生まれたキャラクターたちが生き生きと蠢く世界を作ることなのだと。

そのとおり、バーバヤーガの水車小屋に棲むイモムシ、羽虫、魔法の道具たちも、遠景に描かれた広大な麦畑で働く無数のうさぎ労働者も、みなそれぞれがそれぞれの動きをしている。

「『もののけ姫』はこうしてうまれた」の中でも、アニメーションの語源アニマーレは命を吹き込むこと、と言われていました。
(話ずれるけど、もののけ姫だの、タマゴ姫だの、虫愛ずる姫=ナウシカだの、つくづく宮﨑監督はおよそ姫らしくないものと姫を取り合わせるのが好きな作家ですね)
だからわくわく、生命力が賦活される感じがするのでしょう。

止まったキャラクターがいると逆に目立ったために動きを足す修正を何度も行った、とも書かれていました。
それほどに、すべてのものが生命をもって動いている。
まさに神は細部に宿る。
言葉を一つも使わない生命讃歌。

理由2:初めて見る、何物にも似ていない動き

同じく高坂作画監督の文章によると、この作品を作ったときのテーマの一つが、「正体を捕まれないようにする」こと。つまり、「ああ、これはよく見る〇〇と一緒ね」と言われないようにすること。
パン種を動かすにあたって宮﨑監督は、「モスラの幼虫みたいにならないように」と苦労していたそうです。

たしかに生まれたてのパン種の動きはモスラではなかった。
それでありながら、もしパン種が生命を得たら、あんなふうに動くのだろうな、と思ってしまうような、
なにものにも例え難い、初めて目にするものだった。
これだけコンテンツのあふれた社会で生きてたら、「初めて目にするアニメーション」というのは大変貴重なものです。

理由3:命を削って描く生命讃歌

少し話がずれますが、今回、土星座(ジブリ美術館内の映画館)に行く前に、企画展示を観ました。
現在の企画展示は「君たちはどう生きるか」の背景美術です。
美しい。建築物の書き込みや、空の色使いが繊細。

この展示を観て思ったことは、つくづく「絵は編集だ」ということでした。
何をどれだけ詳細に描いて、何はどれくらい省くのか、そのすべてを描き手がコントロールして世界を作り上げるのだということがよくわかりました。

これを援用すれば、『パン種とタマゴ姫』の12分間は、すべて、目的をもって人間の手によってコントロールして作られた世界だと言うことです。
それで生命感あふれた、生き生きとした世界を作ることができるのか……ほんとうにすごい。脱帽。

アニメーターと言えばかつてはハードワークの代表格でした。今はどうなんでしょう。
命を削って生命讃歌の作品を作っているのか。
うまくいえないけど、確かに作品からはすごみを感じました。

明日に続きます!

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