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#書評
後期資本主義社会で我々はいかに生き延びることができるのか/『透明社会』『疲労社会』書評
著者のビンチョル・ハンの名前を見聞きしたことがない、という読者も多いであろう。それもそのはず、今回取り上げる2冊は著者の初めての邦訳書である。しかし、この2冊で指摘されるのは、わたしたちにとってあまりに馴染み深い現象ばかりである。
『透明社会』において著者は、あらゆる場面において透明性が要求される社会を批判する。ここでいう「透明性」とは、行政における汚職や情報公開、人権擁護の文脈で求められる透明
現状は「革命」的改善の余地があまりある/『#Metooの政治学 コリア・フェミニズムの最前線』 (鄭 喜鎭 ・編、金李 イスル ・訳/大月書店)
#Metooという文字列は 、昨今世界中あらゆる地域で深刻な意味を持つようになった。本書の副題は「コリア・フェミニズムの最前線」とあるが、そこで展開される権力の不均衡と被害者への抑圧は、米国とも日本とも驚くほど近似している。
2017年末のハリウッドを起点として始まった性暴力・セクハラの被害者たちの告発と支援者たちとの連帯は、わずか数カ月後、韓国でも大きなムーブメントとなった。直接のきっかけになっ
紙の上ではなく、路上から。上からではなく下からのフェミニズムが必要だー堅田香織里「生きるためのフェミニズム パンとバラの反資本主義」
本書はまさに「99%のためのフェミニズム」を語る本邦では極めて珍しい書籍の一つである。もちろん参照されたのは、2019年に刊行され、2020年に邦訳もされ話題となった『99%のためのフェミニズム宣言』(シンジア・アルッザ、ティティ・バタチャーリャ、ナンシー・フレイザー共著/恵愛由・訳・人文書院)である。とはいえ、本書で語られる「パンとバラの反資本主義」及び「99%のためのフェミニズム」について日本
もっとみる誰も見たことのない、二人だけが辿り着ける「高み」を提示ー上野千鶴子・鈴木涼美「往復書簡 限界から始まる」
本作において、上野千鶴子に「ぶつけられる」ことになった鈴木涼美は、今日最も取り扱いの難しい作家の一人である。
エーリッヒ・フロム『愛するということ』の翻訳者であり、法政大学名誉教授であった父と児童文学者である母に「愛されて育」ち(本書324頁)、知性と経済力を手にした、大胆な書き手である鈴木涼美は、修士論文を基にした『「AV女優」の社会学 なぜ彼女たちは饒舌に自らを語るのか』でのデビュー以降
知性は力だー小林エリコ『わたしがフェミニズムを知らなかった頃』(晶文社)
本書はある種、奇妙な構造を持っている。筆者はこれまでにも『この地獄を生きるのだ うつ病、生活保護。死ねなかった私が「再生」するまで。』(イースト・プレス)『家族、捨ててもいいですか? 一緒に生きていく人は自分で決める』(大和書房)『わたしはなにも悪くない』(晶文社)等、自身の虐待被害・自殺未遂・精神障害・生活保護受給といった過酷な体験について書き続けてきた。しかし、その中でも本書はそのような「重い
もっとみる振り回されてきた現象に名づけることで、自己を取り戻していくーぼくらの非モテ研究会『モテないけど生きてます』ー
強烈なタイトルの書籍に出会った。『モテないけど生きてます』このタイトルからは「モテない、すなわち(社会的)死であるところ、なぜか生き延びてしまっています…」という極端な価値観を伺わせる。しかし、極端とはいえ、この感覚には男女問わず多くの人に身に覚えがあるのではないだろうか。夜道で一人帰路につくとき、シャワーを浴びているとき、コンビニ飯を貪りながら、「モテないけど、生きてるなぁ…」と。
近年、女性
ジェマ・ヒッキー著/上田勢子訳『第三の性 「X」への道』(明石書店)
第三の性を求めて、国家による二項対立の押しつけを拒否した活動家の半生―著者・ジェマの言葉はあらゆる凡庸な二項対立からわたしたちをすくいあげてくれる
「X」という性を耳にしたことのある人はどれほどいるだろうか。
近年日本においてもLGBTという言葉の標語的な広まりで同性愛やトランスジェンダーについての認識は広まりつつある。しかし、誕生時に与えられた性に違和感をもつ当事者の生育過程が語られる際、未