『地図と拳』読書感想文
※2023年1月19日 第158回直木賞受賞後 リライトしています。
今回手に取ったのは小川哲さんの『地図と拳』です。
待望の新刊!しかも長編!
舞台は『満州国』で、お話は1899年(明治32年)から始まり、終戦で終わります。第二次世界大戦において、日本が軍国主義へと進むターニングポイントは『満州国』にあると思っているので、小川哲さんが今回どのように『満州国』を描くのか、とても興味がありました。
歴史については、大変よくお調べになっている。そう思いました。
物語は空想巨編ですが、膨大な歴史的資料が土台にあるからこそ、お話にリアリティがあり、もう史実か空想なのか、その境界線は全くわからない。
この小説は人の気持ちを感情的に揺さぶるジャンルの小説ではないし、戦争を扱う小説としては俯瞰し過ぎているので反戦啓蒙としては弱いです。
敢えていうなら、秀逸な歴史冒険小説付きの哲学書。
直木賞の受賞会見で小川先生が、SFが好きな理由を語っていたんですけど、わたしが小川先生が好きな理由、そのものだったので追記します。
だからこそ、小川先生は大好きなのだ。
作品の中で気になったところに付箋を貼ったのでメモしておこう。
(自分の確認用)
作品の中で『時間』というのも重要なキーワードでしたね。
10年先を知るためには、10年前を知る なんてことが書いてありました。
この時代の人は実際『時間』をどう捉えていたんだろう?
西洋時計が入るまえの江戸時代、時間は未来から過去に流れていたらしい。
確かに和時計も現在の12時を境に数が減ってゆく。
ざっくり言うと昔の人は、未来にあれをするから今(過去)のうちにこれしとこう。という時間の捉え方をしています。
現在のように過去から未来に流れている時間の価値観は、意外と流されるまま、なにも考えないまま、過ごしてしまいがちになるかもしれないし、過去にいつまでも囚われてしまうかもしれない。なんてことをぼんやり思ったりしました。
うん。時を戻そう。
戦争は、なかなかなくならない。
19世紀にダイナマイト、20世紀に核でした。21世紀はAI戦争になるなんて言われてる。これまでの、はっきり目に見える形での戦争という時代は世界的に終焉かとは思っています。
現状倫理やルールがないAI技術の世界戦争でどんなことが起こるのか、想像もしたくないけど。どこが管理しているか、さっぱりわからないコンプライアンスを振りかざすように、世界の人々が希望を持って、独特な倫理観で正義を振りかざす世界は嫌だ。
善とは心であり
(真は善の指標見誤ってはならない)
だって人間だもん。
読了してそんな感想を持ちました。
2020年読書感想文『嘘と正典』で小川哲先生にラブレターを書きました。『地図と拳』はそのラブレターのお返事を頂いた気分になる作品でした。
小説としてとても良い作品だし、満州国のことを知らない世代には、是非手に取ってほしい作品だなと思います。
いつも読んでくださり
ありがとうございます٩(๑❛ᴗ❛๑)۶