「主宰の定年制」に思うこと(前半)【再録・青磁社週刊時評第四十回2009.3.23.】

「主宰の定年制」に思うこと(前半)  川本千栄

(青磁社のHPで2008年から2年間、川本千栄・松村由利子・広坂早苗の3人で週刊時評を担当しました。その時の川本が書いた分を公開しています。)

 2009年3月13日の読売新聞に俳人の長谷川櫂を取材した記事があった。

〈俳句 中心軸を30~40代に〉〈長谷川櫂さん 『古志』主宰定年制表明〉という見出しである。現在50代である長谷川櫂が、主宰する俳誌『古志』3月号で「主宰の定年制」を打ち出した。記事はそれを「異例の決断」と捉えて、長谷川にインタビューをしている。この新聞記事を読んで驚いたことに、短歌結社と俳句結社の抱える問題点はとても似ている。

 〈…まさに「脂が乗り切った」この時期、あえて主宰交代の意思表明をした。「俳句の中心軸を30~40代に下げる必要がある」という思いからだ。背景には、俳句人口の高齢化や結社の硬直化といった問題への危機意識がある。
実際、今や愛好者の大半を占めるのは仕事を辞め、子育てを終えた高齢者。一方、「俳句甲子園」などを通じて俳句に親しむ若者も少なくないが、ほとんどがその後続かないのが現状だ。
 そのような中、打開策として打ち出したのが、30歳若い主宰に道を譲る主宰交代制だった。「俳句は、芭蕉の頃から戦後しばらく、ずっと若い人が担ってきた。それが、この何十年かで俳壇の人口構成ががらっと変わってしまった。それが問題の土台にある。若い人はもっと発言していいし、発言する以上は責任があるから勉強もするはず」と次世代を育てる大切さを説く…〉

 長谷川が狙ったのは主宰の若返りによって、結社全体の若返りを図り、中心となる世代を現在よりかなり下げよう、そうすることによって若い世代が俳句に取り組みやすくしようということだろう。何しろ2年後に主宰を譲られる予定の副主宰大谷弘至は現在28歳という若さである。30代が主宰する短歌結社は果たしてあるのだろうか。『古志』の主宰交代が行なわれれば、俳句結社だけでなく、短歌結社から見ても画期的ということになるだろう。
短歌にしても俳句にしても若い世代をどう育てるかが課題となっているということだ。「俳句甲子園」などで一時的に盛り上がっても同好の仲間に同年代がいなかったり、ただ淡々と作るばかりで自分の存在感が感じられなかったら続かないのも当然だ。

(続く)

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