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河野裕子『紅』(16)
どんよりと曇りて目鼻なき空が坂の上(へ)のわが家に触るるまで垂る 曇り空に顔があり意思があるような上句。「なき」というのは見せ消ち。その空がわが家に触れるほどまで低く垂れている。下から見上げている構図だ。どことなく不吉な印象を受ける。四句九音が重い。
妻子とふ暮らしの濁り持たざれば男友だち浅瀬の淡(あは)さ 妻子を「暮らしの濁り」と言うところが河野の歌にしては異色。その友達に妻子がいないのではなく、自分との間にそれを持っていないと取った。微妙な関係なのだ。五句のasaseとawasaの音の重なりが心地良い。
聴衆の視線を徐々に束ねつつ司会者のこゑわが名に近づく メインゲストである河野に聴衆の視線が行くよう、名前を呼ぶ前に、溜めをつくるようにその経歴などを述べる司会者。声に対する河野の感性を示す歌。目のいい歌人は多いが、耳のいい歌人はそんなにはいない。
子らが二人待ちゐるゆゑに家なりと雪の夜汽車に目瞑(めつむ)り思ふ どこかへ出かけての帰路。雪の中を夜汽車に乗っている。深い疲労感があるのだろう。そんな中、目を瞑って思う。自分を待つ子供たちがいるから家を家と思える。子供の存在が自分の支えとなっている。
2024.2.3. Twitterより編集再掲