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『歌壇』2024年12月号

死者の数多くむごきが選ばれて今日はウクライナのニュース 米川千嘉子 あまりにも多くの紛争があり過ぎて、ニュースとして選ぶ時は死者数が多いむごいニュースが選ばれる。そして今日はウクライナのニュース。そうなんだろうと思うが報道の持つ残酷さに慄然とする。
 そして報道する側にそういう選択をさせてしまうのは、どんなむごいニュースにもすぐ慣れて、より強い刺激を求める視聴者の側、つまり私達なのだ、ということも考えた。

②吉川宏志「かつて源氏物語が嫌いだった私に 鈴虫」
〈秋好中宮の母、六条御息所は嫉妬と恨みのために、物の怪になってしまいました。中宮は仏道に入り、母を救いたいのです。けれども、その思いを打ち明けても源氏は決して許しません。女性たちが剃髪して、自分をこの世に置き去りにするのが怖くてたまらないのでしょう。〉
 物の怪になるほど苦しんだ母。今より物の怪が身近な世とは言え、相当な苦しみだったはずだ。その苦しみを母に与えた人物に世話になるというのも辛い立場。
 秋好中宮はメインキャラではないし、どっちかというと勝ち組の人だと思ってた。でも今回の連載を読んでこういう脇キャラにも細かい人物設定がされているのだと気づいた。
 それにしても源氏の自己中なことには驚く。でもこの世に置き去りにされるのが怖い、というのはとてもリアル。

③藤岡武雄「近代歌人うた物語 伊藤左千夫」
〈牛乳搾取業は乱立したため、明治末年頃には、共倒れ、生産過剰となっていったのよ。そう。そうさ。今のように冷蔵庫がない時代だものネ(…)家業の牛乳搾取業もうまくゆかず、借金は重なり、水害の痛手から立ち直ることがむつかしく、多くの子供を養育する苦しみだものネ。〉
 相変わらず口調が気になるのだが…。
 明治末年に牛乳搾取業が乱立というのは驚いた。左千夫は独創的なことをしたわけではなかったのだ。冷蔵庫が無いというのは言われてみればそうだが、案外忘れがち。
 ここまで左千夫の生活が逼迫しているとは思わなかった。短歌なんかしててよかったんだろうか…。そして50歳で死んでしまう。むしろ残された妻や7人の子供がその後どうしたか知りたいと思った。

④川本千栄「トピックス「後期・岡井隆を語る会」神楽岡歌会主催」
〈様々な論点が提出されたことによって、現代短歌史上の巨人ともいうべきこの歌人について、より相対化された議論が進むのではないか。〉
 報告記を書かせていただきました。ぜひお読み下さい。
一冊を択べと言ふなら『鵞卵亭』 傷なまなまと塗りこめられて 永田和宏  連載「きのふ今日あす」今号のタイトルは「一冊を択べと言ふなら『鵞卵亭』」。この会のことが詠われています。この会での永田和宏の提言に、会場も壇上も驚いたのでした。
 この会のことは,巻頭グラビアでも取り上げられています。さらに編集後記でも触れられています。ぜひ、ご覧ください。

2024.12.10. Twitterより編集再掲

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