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河野裕子『紅』(17)
いつのまに老婆のわたし 日向には石けり遊びの呪文けんぱつぱ この歌の頃は四十歳前後のはずだが、ふいに自分の晩年に時間が飛ぶ。日向の地面には石けり遊びの陣地が描いてある。けんぱっぱの無意味さが、遊び言葉から呪文に変わる。一瞬の白昼夢のようだ。
おまへたちしつかりお聞きとまづ言ひて羊の母親の必死を思ふ 「狼と七匹の子山羊」だろうか。お前たち、よくお聞き、誰が来ても扉を開けてはいけないよ。そんな注意を必死に子供たちに言い聞かす。童話には無い「必死」の一語が主体の心情や表情さえも伝えて来る。
降りやまぬ雪のむかうもまた夜なる夜の暗さを統べて雪降る 夜の闇の中を白い雪が降っている。それだけの内容だが、言葉の繰り返しと「統べて」の語が一首に荘厳な印象を与えている。「夜なる」が連体形止めのようでもあり、次の「夜」に微妙にかかっているようでもある。
2024.2.4.~5. Twitterより編集再掲