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本の紹介 馬場あき子「掌編 源氏物語」

馬場あき子「掌編 源氏物語」(2024)潮出版社


「源氏物語を読みたいのですが、何から読めばいいですか?」と言われたら、今なら真っ先にこの本をあげるでしょう。

この本は、「掌編」とあるとおり、源氏物語の抜粋をまとめたものになっています。


54帖全てを収録

この本の良さは、まず、54帖全てが収録されていることです。

源氏物語は、「帖(じょう)」という、まとまりに分かれています。概ね、この帖ごとに物語を読んでいけば、内容を理解しやすくなっています。

しかし、その全てを読みこなすことは大変です。膨大な量になります。

一方で、その一部だけを読んでもおもしろいのですが、全体を読み通すからこそわかることも多いので、どうしても内容がわからなくなってしまう部分も出てきます。

また、全体のあらすじを読んだだけでは、やっぱり「源氏物語を読んだ」という気にはなれないでしょう。


そこで、この本です。

この本では、53帖全てが収録されているので、全体の流れをかなり原作に忠実に読むことができます。

また、各帖が3ページにまとまっていますので、読む負担はそれほど高くありません。


現代語訳は歌人の馬場あき子

もちろん、取りこぼしている部分は多いですし、3ページでは描ききれない部分もあります。

しかし、とても的を射た訳になっており、内容の理解しやすさと、原作への忠実さとのバランスが、とても良いと思います。

訳しているのは、歌人としてしられる馬場あき子さんです。豊かな表現力に驚きます。

現代語訳は、その人の持っている現代の言葉の力も必要になります。現代でも通じ、かつ多彩な表現として訳していくことは、簡単ではないことです。

そういった意味で、とても読みやすく、同時に豊かな表現を味わえる、優れた訳になっていると思います。


和歌の扱い

この本では、多くの和歌が紹介されています。和歌の部分も、割愛してしまうこともできたでしょう。

しかし、その帖のクライマックスともいえる場面が和歌の場面であることも多いので、おそらく、和歌の部分を丁寧に扱っているのだと思います。

この、和歌の表現を大切にしている姿勢は、とても素晴らしいと思います。


『現代の源氏物語絵』

また、この本のもう一つのポイントは、香老舗松栄堂の依頼により作成された『現代の源氏物語絵』が付されていることです。そもそもこの本の成り立ちは、この54枚の絵から始まっているのだそうです。

『現代の源氏物語絵』は、当時の京都画壇で活躍していた日本画家54人に依頼して制作されたもので、一枚一枚が全く違った様相を呈しています。

その一枚一枚を味わいながら読み進められるのも、この本の魅力の一つです。


以上のような点から、最初に読むのにぴったりで、魅力にあふれた本になっています。源氏物語の入門として、とてもおすすめです。


執筆者:古原大樹/1984年山形県生まれ。山形大学教育学部、東京福祉大学心理学部を卒業。高校で国語教師を13年間務めた後、不登校専門塾や通信制高校、日本語学校、少年院などで働く。2024年に株式会社智秀館を設立。智秀館塾塾長。吉村ジョナサンの名前で作家・マルチアーティストとして文筆や表現活動を行う。古典を学ぶPodcast「吉村ジョナサンの高校古典講義」を公開中。学習書に『50分で読める高校古典文法』『10分で読める高校古典文法』『指導者のための小論文の教え方』がある。

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